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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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「……確かに、僕個人の意見としては、蓮さんに人を傷付けるようなことしてほしくはないです」
慎重に言葉を選びながらとつとつと、蓮さんからすれば浅はかな綺麗事にしか思えない本心を口にする。
蓮さんは黙っていたが、僕の言葉を責める風ではなく次の言葉を待っているようだったので続けた。
「でも、蓮さんの生い立ちを思えば、お父さんを恨む気持ちも分かりますし、それに対して部外者の僕がとやかく言う権利はないと思います」
正しさがいつも人を救うわけはないことは、僕だって分かっている。
蓮さんの今まで受けてきた苦痛はきっと僕の想像なんて遙かに超えるものに違いない。
それを抑え込ませてまで僕の思う正しさを押しつけるのは、もはや一種の暴力だ。
「……なので『ギャフンと言わせる』が僕なりの折衷案です」
我ながら中途半端な案だと思う。でも、これが僕の想いと蓮さんの想いをすり合わせて見つけた考えだ。
蓮さんがフッ、と小さく笑った。
「なんかお前らしいな」
「そ、そうですか?」
「うん、お前らしい。その気が抜けるような折衷案」
蓮さんが喉を鳴らして笑う。気分を害した様子のない蓮さんにほっと胸を撫で下ろした。
「……話を戻すけどさ、だからお前を初めて見た時、同じ歳くらいでホストやってるおっさんってことだけであの男と重なったんだ。それで無性に腹が立った」
「あ……」
蓮さんの言葉にあの日言われた言葉を思い出した。
――俺の嫌いなものトップスリーって何だと思う?
――まず一つめは、ホストなんかにはまる馬鹿女。
――二つめは、そんな馬鹿女たちに媚びて金を巻き上げるクソホスト。
――そして三つめは……自分の尻も拭えないいい歳したおっさん。
あの言葉は全て蓮さんのお父さんのことを言っていたのだと、ようやく繋がった。
「でもお前は全然あの男なんかと違う。どんなに辛い状況でも逃げ出したりしないで頑張るし、あんな男と重ねて見てた自分が恥ずかしくなった」
「い、いえいえ、そんな立派なものではないです」
蓮さんの言葉に恐縮してブンブンと手を横に振った。
事実、逃げ出さないのも単に逃げ場がないだけというのもある。
「いや、お前はちゃんと頑張ってる。あの実力主義のオーナーが雇ったのも今ならよく分かる。……だからお前はいらなくなんかない」
「え?」
目を丸くして蓮さんの方を見る。
蓮さんはふいと顔を背けたけれど、それでもとつとつと言葉を続けた。
「お前みたいに真面目に頑張り続けられる奴って意外とそんなに多くない。……俺はお前のそういうところ、素直にすごいと思う」
「蓮さん……」
それが慰めでもお世辞でもないことは、蓮さんの人にも自分にも厳しい性格や不器用な優しさが感じられる声からよく分かった。
目頭がじわりと熱くなる。
ありがとうと言いたいのに、口を開けば嗚咽のような声が漏れてしまいそうで何も言えなかった。
「だからお前をいらないと判断した前の職場は見る目がない。そんな会社すぐ潰れるに決まってる。かえってクビになってよかったな」
いい気味だとでもいうような蓮さんの言い方に、僕は小さく吹き出した。
「何だよ?」
「いえ、クビになってよかったなんて言われたの初めてで、つい……」
クビになったことを話すと大概の人が同情を口にするので、その新しい反応が新鮮で面白かった。
なるほど、そういう考え方もあるのか。思い返してみれば、慣れないこともあって大変だけれど、前の職場よりも今の職場の方がずっと楽しいし、自分でも生き生きしているのが分かる。
「……そうですね、クビになってよかったです」
そう言い切ると、胸が清々しい気持ちで満ちた。
自分は、いらない人間なんかじゃない。そう強く思えた。
「蓮さん、ありがとうございます」
「……別に、思ったことをただ言っただけで礼を言われるようなことじゃねぇよ」
ぶっきらぼうに言うと、蓮さんは寝返りを打って僕に背を向けた。けれどその素っ気なさに冷たさを感じることはなかった。
自然と笑みが零れる。
「一日お疲れ様でした。おやすみなさい」
背中に向かって小声で言葉を投げ掛けると、「……おやすみ」とシーツの衣擦れの音に消えそうなほど小さい声だけれど返事があった。
僕は穏やかな気持ちで目を閉じた。きっといい夢が見られそうな柔らかな予感と微睡みが静かに僕を包み込んだ。
慎重に言葉を選びながらとつとつと、蓮さんからすれば浅はかな綺麗事にしか思えない本心を口にする。
蓮さんは黙っていたが、僕の言葉を責める風ではなく次の言葉を待っているようだったので続けた。
「でも、蓮さんの生い立ちを思えば、お父さんを恨む気持ちも分かりますし、それに対して部外者の僕がとやかく言う権利はないと思います」
正しさがいつも人を救うわけはないことは、僕だって分かっている。
蓮さんの今まで受けてきた苦痛はきっと僕の想像なんて遙かに超えるものに違いない。
それを抑え込ませてまで僕の思う正しさを押しつけるのは、もはや一種の暴力だ。
「……なので『ギャフンと言わせる』が僕なりの折衷案です」
我ながら中途半端な案だと思う。でも、これが僕の想いと蓮さんの想いをすり合わせて見つけた考えだ。
蓮さんがフッ、と小さく笑った。
「なんかお前らしいな」
「そ、そうですか?」
「うん、お前らしい。その気が抜けるような折衷案」
蓮さんが喉を鳴らして笑う。気分を害した様子のない蓮さんにほっと胸を撫で下ろした。
「……話を戻すけどさ、だからお前を初めて見た時、同じ歳くらいでホストやってるおっさんってことだけであの男と重なったんだ。それで無性に腹が立った」
「あ……」
蓮さんの言葉にあの日言われた言葉を思い出した。
――俺の嫌いなものトップスリーって何だと思う?
――まず一つめは、ホストなんかにはまる馬鹿女。
――二つめは、そんな馬鹿女たちに媚びて金を巻き上げるクソホスト。
――そして三つめは……自分の尻も拭えないいい歳したおっさん。
あの言葉は全て蓮さんのお父さんのことを言っていたのだと、ようやく繋がった。
「でもお前は全然あの男なんかと違う。どんなに辛い状況でも逃げ出したりしないで頑張るし、あんな男と重ねて見てた自分が恥ずかしくなった」
「い、いえいえ、そんな立派なものではないです」
蓮さんの言葉に恐縮してブンブンと手を横に振った。
事実、逃げ出さないのも単に逃げ場がないだけというのもある。
「いや、お前はちゃんと頑張ってる。あの実力主義のオーナーが雇ったのも今ならよく分かる。……だからお前はいらなくなんかない」
「え?」
目を丸くして蓮さんの方を見る。
蓮さんはふいと顔を背けたけれど、それでもとつとつと言葉を続けた。
「お前みたいに真面目に頑張り続けられる奴って意外とそんなに多くない。……俺はお前のそういうところ、素直にすごいと思う」
「蓮さん……」
それが慰めでもお世辞でもないことは、蓮さんの人にも自分にも厳しい性格や不器用な優しさが感じられる声からよく分かった。
目頭がじわりと熱くなる。
ありがとうと言いたいのに、口を開けば嗚咽のような声が漏れてしまいそうで何も言えなかった。
「だからお前をいらないと判断した前の職場は見る目がない。そんな会社すぐ潰れるに決まってる。かえってクビになってよかったな」
いい気味だとでもいうような蓮さんの言い方に、僕は小さく吹き出した。
「何だよ?」
「いえ、クビになってよかったなんて言われたの初めてで、つい……」
クビになったことを話すと大概の人が同情を口にするので、その新しい反応が新鮮で面白かった。
なるほど、そういう考え方もあるのか。思い返してみれば、慣れないこともあって大変だけれど、前の職場よりも今の職場の方がずっと楽しいし、自分でも生き生きしているのが分かる。
「……そうですね、クビになってよかったです」
そう言い切ると、胸が清々しい気持ちで満ちた。
自分は、いらない人間なんかじゃない。そう強く思えた。
「蓮さん、ありがとうございます」
「……別に、思ったことをただ言っただけで礼を言われるようなことじゃねぇよ」
ぶっきらぼうに言うと、蓮さんは寝返りを打って僕に背を向けた。けれどその素っ気なさに冷たさを感じることはなかった。
自然と笑みが零れる。
「一日お疲れ様でした。おやすみなさい」
背中に向かって小声で言葉を投げ掛けると、「……おやすみ」とシーツの衣擦れの音に消えそうなほど小さい声だけれど返事があった。
僕は穏やかな気持ちで目を閉じた。きっといい夢が見られそうな柔らかな予感と微睡みが静かに僕を包み込んだ。
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