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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「本当は駆け落ちするみたいだったけど、直前で男の方が怖じ気付いて逃げ出したんだ。で、男の方は顔と女に取り入る特技を生かしてホストになった。……それでまだこの街でホストしてるらしい」
「え!」

 自分と同年代でまだホストとして働いていることにも驚いたが、この街に蓮さんの生い立ちに影を落とした張本人がいることに驚いた。

「この街でホストしてるんですか?」
「ああ、まぁ店まではわからねぇけど。一応この街の店のホスト全部確認したけど、表には出てなかった。たぶん裏で固定客相手にしてるのかもな」

 なるほど、そういう店のシステムもあるのか。
  そういえば、テツ君もホストは引退しているけど、懇意にしているお客さんには時々つくことがある。きっとそういう感じなのだろう。

「じゃあ蓮さんがこの街でホストしているのってもしかしてお父さんを探してるからなんですか?」

 もしそうなら悲しい生い立ちや家庭環境に希望が見えるような気がして、心持ち声のトーンが上がった。

「……そうだな、あの男を探してこの街に来た。でもお前が思ってるような、ただ会いたいっていうような純粋な気持ちじゃない。あの男の居場所を奪うためだ」
「居場所を奪う……」

 奪う、という何やら物騒な言葉に胸が少しざわついた。

「あの男はこの街で昔ナンバーワンホストで、伝説的存在になったそうだ。だからその伝説を俺がぶっ壊してあいつの居場所を奪ってやる」

 低い声で呻くようにして蓮さんが言った。
 言葉の端々に滲み出ている奥歯を噛みしめすぎて軋むような、静かで不穏な怒りに僕は息を呑んだ。
 蓮さんの生い立ちを思えば、その怒りは当然のものだ。母親と自分を置いて出て行った父親に復讐したい気持ちも理解できる。
 けれど、その復讐心に諸手を挙げて賛同することは躊躇われた。復讐は相手だけでなく、自分も傷付けることがあるからだ。
 だからといって、部外者の僕が一般論で復讐はいけないと説いたところで、底の浅い綺麗事だと一蹴されるだけだろう。
 僕はぎゅっと拳を握って、口を開いた。

「……そ、そうですね! ギャフンと言わせてやりましょう!」

 拳を握りしめて勢いよく言うと、なぜか蓮さんは目を丸くした。そして、次には小さく噴き出した。

「え? え? なにか変なこと言いましたか?」

 なるべく蓮さんの気持ちに添って言葉を選んだつもりだったのに、予想外の反応に戸惑った。

「ギャフンってなんだよ……。そんな言葉使う奴、初めて見た」

 肩を震わせながら堪えるようにして蓮さんが笑い続ける。
 確かに最近使っている人はいない。死語を使ってスベったようななんとも言えない恥ずかしさに顔が熱くなる。

「……でも意外だな」

 ひとしきり笑って落ち着くと、蓮さんがぽつりと呟いた。

「え? 何がですか?」
「お前のことだから、きっと『そんな風に言ったらだめですよ』とか言うと思ってた」

 内心を見透かされたような言葉にどきっとする。
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