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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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どうしようかと戸惑う。あまり踏み込んできくのはよくないと思ったけれど、このまま沈黙でもって話を打ち切るのも躊躇われた。
いい言葉を思い浮かばず口ごもっていると、
「ごめん、気まずい話をして」
「い、いえっ、そんなことないです! むしろ僕なんかに話して頂いて光栄です!」
熱を込めて言った後にハッとする。なんだか打ち解けて貰えたようで素直に嬉しいと思ったけれど、考えてみればこんな繊細な話題に対して嬉しいと思うのは不謹慎だろう。
慌てて訂正しようとしたけれど、蓮さんは不快には思わなかったようで、柔らかく吐息だけで笑った。
「光栄ってなんだよ」
「あ、いえ、こういうナイーブな話をしてくれるというのは僕に少し気を許してくれたのかなと……」
言いながら自分のおこがましさに気付いて口ごもる。
「気を許したというか……なんだろ、お前には話せる気がした」
自分自身でも不思議そうに蓮さんが呟いた。
それは気を許してくれているということじゃないだろうか……、と思ったけれど口にはしなかった。
「そうですか……。あのっ」
緊張しながら口を開く。
「もし、嫌でなければ蓮さんのお父さんについて話してくれませんか……?」
図々しい無神経なヤツと思われるかもしれない。でも、何となく、蓮さんは話したがっているように感じた。懺悔室で告解するような、悲痛な切実さが蓮さんの声や横顔の輪郭に滲んでいるように思えたからだ。
躊躇うというより、どこから話すべきか整理するような間を置いて蓮さんは話し始めた。
「……たぶん、凛太郎の言葉から何となく分かってるだろうけど、俺の父親と蘭香たちの父親は違う」
僕は静かに頷いた。確かに凛太郎さんの言葉や口振りから、それは何となく察していた。
「蘭香たちの父親は藤ヶ谷家の長男で、俺の父親は次男。……それで母親は蘭香達の父親の嫁」
淡々と語られる複雑な家庭の事情に息が苦しくなった。凛太郎さんの冷たい態度と併せて考えれば、蓮さんが厄介者扱いされていたことは明らかだろう。
「一応、戸籍上は俺も蘭香達の父親の子ということになってるけど、家族も、村のヤツもみんな知ってる。うちの家、田舎の地主だからすぐにそういう噂は広がるんだよ」
「……そうですか」
聞けば聞くほど、辛い生い立ちが浮き彫りになって胸が苦しくなった。
けれど当の本人は、悲しげな表情ひとつ見せず淡々と続けた。
「母さんは病弱で藤ヶ谷家に嫁いでからもずっと屋敷に引きこもってて、蘭香たちの父親はちょうど大きな事業を手掛けてて本家にほとんどいなかった。……きっと寂しかったんだろうな、だから俺の父親みたいな馬鹿に引っかかったんだ」
同情と唾棄が混ざった複雑な声で言って、蓮さんが溜め息を吐いた。
「どっちから言い寄ったかは知らねぇけど、蘭香たちの父親がいない間に二人の仲は進展して、母さんは俺を妊娠した」
僕はこれまで生きてきてこんなにも空虚で、絶望すら感じさせる響きの妊娠という言葉を聞いたことがなかった。小さな命に対する祝福が入る余地など少しもない言い方だった。
いい言葉を思い浮かばず口ごもっていると、
「ごめん、気まずい話をして」
「い、いえっ、そんなことないです! むしろ僕なんかに話して頂いて光栄です!」
熱を込めて言った後にハッとする。なんだか打ち解けて貰えたようで素直に嬉しいと思ったけれど、考えてみればこんな繊細な話題に対して嬉しいと思うのは不謹慎だろう。
慌てて訂正しようとしたけれど、蓮さんは不快には思わなかったようで、柔らかく吐息だけで笑った。
「光栄ってなんだよ」
「あ、いえ、こういうナイーブな話をしてくれるというのは僕に少し気を許してくれたのかなと……」
言いながら自分のおこがましさに気付いて口ごもる。
「気を許したというか……なんだろ、お前には話せる気がした」
自分自身でも不思議そうに蓮さんが呟いた。
それは気を許してくれているということじゃないだろうか……、と思ったけれど口にはしなかった。
「そうですか……。あのっ」
緊張しながら口を開く。
「もし、嫌でなければ蓮さんのお父さんについて話してくれませんか……?」
図々しい無神経なヤツと思われるかもしれない。でも、何となく、蓮さんは話したがっているように感じた。懺悔室で告解するような、悲痛な切実さが蓮さんの声や横顔の輪郭に滲んでいるように思えたからだ。
躊躇うというより、どこから話すべきか整理するような間を置いて蓮さんは話し始めた。
「……たぶん、凛太郎の言葉から何となく分かってるだろうけど、俺の父親と蘭香たちの父親は違う」
僕は静かに頷いた。確かに凛太郎さんの言葉や口振りから、それは何となく察していた。
「蘭香たちの父親は藤ヶ谷家の長男で、俺の父親は次男。……それで母親は蘭香達の父親の嫁」
淡々と語られる複雑な家庭の事情に息が苦しくなった。凛太郎さんの冷たい態度と併せて考えれば、蓮さんが厄介者扱いされていたことは明らかだろう。
「一応、戸籍上は俺も蘭香達の父親の子ということになってるけど、家族も、村のヤツもみんな知ってる。うちの家、田舎の地主だからすぐにそういう噂は広がるんだよ」
「……そうですか」
聞けば聞くほど、辛い生い立ちが浮き彫りになって胸が苦しくなった。
けれど当の本人は、悲しげな表情ひとつ見せず淡々と続けた。
「母さんは病弱で藤ヶ谷家に嫁いでからもずっと屋敷に引きこもってて、蘭香たちの父親はちょうど大きな事業を手掛けてて本家にほとんどいなかった。……きっと寂しかったんだろうな、だから俺の父親みたいな馬鹿に引っかかったんだ」
同情と唾棄が混ざった複雑な声で言って、蓮さんが溜め息を吐いた。
「どっちから言い寄ったかは知らねぇけど、蘭香たちの父親がいない間に二人の仲は進展して、母さんは俺を妊娠した」
僕はこれまで生きてきてこんなにも空虚で、絶望すら感じさせる響きの妊娠という言葉を聞いたことがなかった。小さな命に対する祝福が入る余地など少しもない言い方だった。
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