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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「は、はい、なんでしょう」

 珍しく少し緊張した様子に、僕の方も緊張しながら顔を蓮さんの方を見た。
 蓮さんは天井に視線を据えてこちらを見ずに続けた。

「前に……お前が俺のヘルプに初めて入った時の話だけどさ」
「ああ! あの時は、色々とご迷惑をおかけしました」

 蓮さんのお得意様の服にお酒をこぼしてしまいフォローしてもらったことを思い出して、苦い気持ちで笑いながら頭を掻く。
 すると蓮さんが慌てたように「違う、そのことじゃない」と言った。

「そのことじゃないというと……?」

 ぴんと来ずに首を傾げると、蓮さんはためらいがちに口を開いた。

「……俺、お前に色々ひどいこと言っただろ」
「あ……」

 確かに手厳しいことを言われたことは覚えている。
 でも、蓮さんの言うことはもっともだったし、それにひどいこと、と絞り出した声があまりに苦しげだったので、僕は首を横に振った。
 
「そんな、ひどいことなんて思ってませんよ。蓮さんの言葉は正論でしたし――」
「正論なんかじゃない」

 どこか悲痛さを滲ませた厳しい声で僕の言葉を蓮さんが遮った。

「あれは、八つ当たりだ。……お前を俺の父親に重ねて当たったんだ」
「え?」

 父親、という言葉に思わず息を飲む。

 ――縁者を誑し込むところまで父親そっくりだ。

 凛太郎さんの嫌悪と侮蔑が込められた言葉が頭に蘇る。
 詳しい家庭の事情はわからないけれど、蓮さんの家族との不仲の原因が父親であることは明らかだった。
 だからなるべく父親のことは話題に出さないようにしようと思っていたのだけれど、まさか蓮さんの方からそのことを話題にあげるとは思っていなくて驚いた。
 さらにその父親と僕を重ねていたというのだから戸惑いは隠せない。

「……えっと、蓮さんのお父さんと僕、そんなに似ているんですか?」

 凛太郎さんの言葉を聞く限り、女性にモテる人のようだったので、とても似ているとは思えなかったけれど一応確認する。
 すると、蓮さんは苦笑して「全然」と答えた。

「別に姿形が似ているから重ねたわけじゃない。……俺の父親も、お前と同じ歳くらいでさ」
「え!」

 僕と同じ歳くらいで、成人した子供が!? 一体何歳の時の子だろう……?

 思わず両手を使って計算を始めると、それに気づいた蓮さんがフッと笑って「まぁ、同じ歳くらいと言っても向こうは四十だけど」と明確な年齢を教えてくれた。

「なるほど。それでもやっぱりお若いですね」

 自分は子供どころか結婚もまだなのにと苦笑していると、蓮さんが唾を吐き捨てるみたいに冷笑を漏らした。
 ただ、その冷笑は僕に向けてのものではなかった。

「そう、若い。馬鹿みたいに若い。いや、馬鹿みたいじゃなくて馬鹿だ。ただの若い馬鹿。……あいつが十八の時に俺の母さん孕ませて、そのまま藤ヶ谷家から逃げ出した」

 打ち明けられた内容に、ごくりと唾を飲み込んだ。
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