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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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家にお邪魔して普段の様子を見て気づいたけれど、蓮さんは所作の所々に育ちの良さを感じる。食べる時もごく自然に「いただきます」と手を合わせていたし、箸の使い方もきれいだ。
蘭香ちゃんも礼儀正しく言葉遣いもきれいだからきっと由緒正しい家柄なのだろう。けれど、凛太郎さんの態度を見る限り決して温かい家庭ではなかったことが窺える。
そんな蓮さんの前で仲の良い家族のことを話してしまい、自分の軽率さが恥ずかしくなった。
「あ、お皿は僕が洗いますよ」
お皿を重ねて台所に下げようとする蓮さんを僕は慌てて引き留めた。
家にお邪魔してご馳走になった上に、家主に皿洗いまでさせてしまうのは申し訳ない。
「別にいい。一応客なんだから座ってろ」
「いえいえ、客なんて大層な者ではないので……」
「いいって、座ってテレビでも見てろよ」
「それはなんだか落ち着かないので、僕に皿洗いさせてください」
お皿を洗っている蓮さんを背にしてテレビを見て寛ぐなんて逆に落ち着かない。
しつこく食い下がる僕に、蓮さんは溜め息を吐いて「分かった、俺が洗うから水で流して」と言って台所へ向かった。
水が流れる音と皿同士が微かに触れて零れる音だけが、古いけれどしっかり掃除されたシンクに響いた。
時々、桜季さんが観ているテレビの音が居間から漏れ聞こえた。
蓮さんと並んでお皿を洗いながら、僕はこの至近距離でありながら無言の空間に、気まずさとまではいかないけれど落ち着きのなさを感じていた。
きっと晴仁のような仲の良い友人ならこの程度の沈黙など気にならないだろうが、蓮さんは年下といえでも職場の先輩だ。沈黙は失礼になることもある。
僕は掃除の行き届いた台所を見ながら話題を探した。
「……蓮さんって意外と家庭的ですね」
「は? なんだそれ?」
感じたことを率直に言ったのだけれど、訝しげに眉根を寄せる蓮さんに、失言だっただろうかと慌てた。
「あ、いえ、悪い意味じゃないですよ! 部屋も水回りもきれいに掃除してるなと思って」
「それで意外って思うってことは、俺の部屋がどんだけ汚いと思ってたんだよ」
蓮さんがじとりと睨む。
「ち、違いますよっ。むしろ逆で、ものすごい高級マンションに住んでいると思ってました」
「寝るだけの場所にそんな大金かけられるか」
「確かにもったいないですよね。でも前に観たテレビで売れっ子ホストの人が高級マンションに住んでいたので、てっきり蓮さんもそうかと思っていました」
「ああ、いるな、そういう奴。いつまでも金があるって思ってる馬鹿だ」
鼻で笑うような溜め息を吐いて蓮さんが言った。僕はその辛辣な言葉と、シビアな金銭感覚に少し驚いた。
と同時に、本棚の倹約や貯金についての本があったことに納得がいった。
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「あ、お皿は僕が洗いますよ」
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家にお邪魔してご馳走になった上に、家主に皿洗いまでさせてしまうのは申し訳ない。
「別にいい。一応客なんだから座ってろ」
「いえいえ、客なんて大層な者ではないので……」
「いいって、座ってテレビでも見てろよ」
「それはなんだか落ち着かないので、僕に皿洗いさせてください」
お皿を洗っている蓮さんを背にしてテレビを見て寛ぐなんて逆に落ち着かない。
しつこく食い下がる僕に、蓮さんは溜め息を吐いて「分かった、俺が洗うから水で流して」と言って台所へ向かった。
水が流れる音と皿同士が微かに触れて零れる音だけが、古いけれどしっかり掃除されたシンクに響いた。
時々、桜季さんが観ているテレビの音が居間から漏れ聞こえた。
蓮さんと並んでお皿を洗いながら、僕はこの至近距離でありながら無言の空間に、気まずさとまではいかないけれど落ち着きのなさを感じていた。
きっと晴仁のような仲の良い友人ならこの程度の沈黙など気にならないだろうが、蓮さんは年下といえでも職場の先輩だ。沈黙は失礼になることもある。
僕は掃除の行き届いた台所を見ながら話題を探した。
「……蓮さんって意外と家庭的ですね」
「は? なんだそれ?」
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「あ、いえ、悪い意味じゃないですよ! 部屋も水回りもきれいに掃除してるなと思って」
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