35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
206 / 228
第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

36

しおりを挟む
「あの会社では僕はいらなかったのかもしれませんけど、ここでは僕を必要としてくれる。そう思ったらすごく心強くなったんです」

 当たり前のことだけれど、世界はあの会社だけじゃない。でも、そんな当たり前のことに気づけないほど僕は気持ちがすっかり弱っていた。
前の会社からいらないと判断されクビになった僕は、まるでこの世界の全てに否定されどこにも居場所がないような絶望的な気持ちだった。 
 けれど、パラディゾでがんばって働いていたらいつの間にかそこは僕の大事な居場所になっていた。
 その時はじめて、笑い事ではなかった過去を、自分は社会に必要とされない人間だと極端な考えになっていた自分を、温かい目で笑うことが出来た。

「……僕は蓮さんの家庭の事情をよく知りません。だからさっきの凛太郎さんの言葉を僕がどんなに否定しても説得力がないと思います」

 事情を知らない人間がどんなに言葉を尽くしても、当然相手には響かない。安易な慰めやきれい事の説教は、相手の神経を逆撫でしてしまうだけだ。
 僕の言葉もきっと蓮さんにとってはそれらと変わりないだろう。分かっていても、僕は口を止められなかった。

「でも、パラディゾには蓮さんはいなくてはならない存在ですし、蘭香ちゃんも蓮さんが大好きです。僕も蓮さんのおかげで安心してヘルプに入らせてもらっていますし……」

 蓮さんの家庭の事情は知らない。だけど、パラディゾや蘭香ちゃん、そして僕にとって蓮さんが大事な存在であることはよく知っている。だからこそ自信を持って言えた。

「もしたとえ凛太郎さんが言ったことが否定できなくても、これだけは言えます。パラディゾや蘭香ちゃん、僕にとって、蓮さんはいなくてはならない存在です。蓮さんは絶対にいらなくないです」

 真っ直ぐ蓮さんの目を見詰めて、力強く断言する。

 ――大丈夫、いらない人間なんかじゃない。

 目の前の蓮さんに、そして過去の自分にその言葉を伝えたかった。

「……だから、いらないなんて悲しい言葉をそんな簡単に受け入れないでください……っ」

 凛太郎さんの心ない言葉になんの反論も反応も見せない蓮さんを思い出して、また声に涙の気配が纏ってきた。
 おこがましい話だけれど、きっと僕は今の蓮さんと昔の僕を重ねてしまっている。だから余計に胸が苦しくて、どうにかしたかった。
 たとえ大きなお世話でも、見当違いな慰めでも、何もしないことはできなかった。
 僕は濡れた目元を手の甲で荒く拭ってから、顔を上げた。

「すみません……、なんか変に熱く語ってしまって。でも、どうしても伝えたくて……」
「別に謝ることじゃないし。……で、このデザートは結局何?」

 苦笑する僕に蓮さんは袋の中のプリンを取り出して言った。

「それは、あの、僕が会社をクビになった日、コンビニスイーツを食べたら少しだけ元気が出て……。だから蓮さんにもどうかなぁ、と……」

 言いながら、自分のしていることがひどく独り善がりに思えて、恥ずかしくなってきた。

 か、顔が熱い……!

 下を向いて赤くなった顔を隠した。
 すると、フッと柔らかい笑いを含んだ吐息が頭上をかすめた。

「甘いもので元気になるって子供かよ」

 蓮さんが手の甲を口元に当てて笑った。快活で優しいその笑みは、蘭香ちゃんの向ける表情と同じものだった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

処理中です...