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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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「あの会社では僕はいらなかったのかもしれませんけど、ここでは僕を必要としてくれる。そう思ったらすごく心強くなったんです」
当たり前のことだけれど、世界はあの会社だけじゃない。でも、そんな当たり前のことに気づけないほど僕は気持ちがすっかり弱っていた。
前の会社からいらないと判断されクビになった僕は、まるでこの世界の全てに否定されどこにも居場所がないような絶望的な気持ちだった。
けれど、パラディゾでがんばって働いていたらいつの間にかそこは僕の大事な居場所になっていた。
その時はじめて、笑い事ではなかった過去を、自分は社会に必要とされない人間だと極端な考えになっていた自分を、温かい目で笑うことが出来た。
「……僕は蓮さんの家庭の事情をよく知りません。だからさっきの凛太郎さんの言葉を僕がどんなに否定しても説得力がないと思います」
事情を知らない人間がどんなに言葉を尽くしても、当然相手には響かない。安易な慰めやきれい事の説教は、相手の神経を逆撫でしてしまうだけだ。
僕の言葉もきっと蓮さんにとってはそれらと変わりないだろう。分かっていても、僕は口を止められなかった。
「でも、パラディゾには蓮さんはいなくてはならない存在ですし、蘭香ちゃんも蓮さんが大好きです。僕も蓮さんのおかげで安心してヘルプに入らせてもらっていますし……」
蓮さんの家庭の事情は知らない。だけど、パラディゾや蘭香ちゃん、そして僕にとって蓮さんが大事な存在であることはよく知っている。だからこそ自信を持って言えた。
「もしたとえ凛太郎さんが言ったことが否定できなくても、これだけは言えます。パラディゾや蘭香ちゃん、僕にとって、蓮さんはいなくてはならない存在です。蓮さんは絶対にいらなくないです」
真っ直ぐ蓮さんの目を見詰めて、力強く断言する。
――大丈夫、いらない人間なんかじゃない。
目の前の蓮さんに、そして過去の自分にその言葉を伝えたかった。
「……だから、いらないなんて悲しい言葉をそんな簡単に受け入れないでください……っ」
凛太郎さんの心ない言葉になんの反論も反応も見せない蓮さんを思い出して、また声に涙の気配が纏ってきた。
おこがましい話だけれど、きっと僕は今の蓮さんと昔の僕を重ねてしまっている。だから余計に胸が苦しくて、どうにかしたかった。
たとえ大きなお世話でも、見当違いな慰めでも、何もしないことはできなかった。
僕は濡れた目元を手の甲で荒く拭ってから、顔を上げた。
「すみません……、なんか変に熱く語ってしまって。でも、どうしても伝えたくて……」
「別に謝ることじゃないし。……で、このデザートは結局何?」
苦笑する僕に蓮さんは袋の中のプリンを取り出して言った。
「それは、あの、僕が会社をクビになった日、コンビニスイーツを食べたら少しだけ元気が出て……。だから蓮さんにもどうかなぁ、と……」
言いながら、自分のしていることがひどく独り善がりに思えて、恥ずかしくなってきた。
か、顔が熱い……!
下を向いて赤くなった顔を隠した。
すると、フッと柔らかい笑いを含んだ吐息が頭上をかすめた。
「甘いもので元気になるって子供かよ」
蓮さんが手の甲を口元に当てて笑った。快活で優しいその笑みは、蘭香ちゃんの向ける表情と同じものだった。
当たり前のことだけれど、世界はあの会社だけじゃない。でも、そんな当たり前のことに気づけないほど僕は気持ちがすっかり弱っていた。
前の会社からいらないと判断されクビになった僕は、まるでこの世界の全てに否定されどこにも居場所がないような絶望的な気持ちだった。
けれど、パラディゾでがんばって働いていたらいつの間にかそこは僕の大事な居場所になっていた。
その時はじめて、笑い事ではなかった過去を、自分は社会に必要とされない人間だと極端な考えになっていた自分を、温かい目で笑うことが出来た。
「……僕は蓮さんの家庭の事情をよく知りません。だからさっきの凛太郎さんの言葉を僕がどんなに否定しても説得力がないと思います」
事情を知らない人間がどんなに言葉を尽くしても、当然相手には響かない。安易な慰めやきれい事の説教は、相手の神経を逆撫でしてしまうだけだ。
僕の言葉もきっと蓮さんにとってはそれらと変わりないだろう。分かっていても、僕は口を止められなかった。
「でも、パラディゾには蓮さんはいなくてはならない存在ですし、蘭香ちゃんも蓮さんが大好きです。僕も蓮さんのおかげで安心してヘルプに入らせてもらっていますし……」
蓮さんの家庭の事情は知らない。だけど、パラディゾや蘭香ちゃん、そして僕にとって蓮さんが大事な存在であることはよく知っている。だからこそ自信を持って言えた。
「もしたとえ凛太郎さんが言ったことが否定できなくても、これだけは言えます。パラディゾや蘭香ちゃん、僕にとって、蓮さんはいなくてはならない存在です。蓮さんは絶対にいらなくないです」
真っ直ぐ蓮さんの目を見詰めて、力強く断言する。
――大丈夫、いらない人間なんかじゃない。
目の前の蓮さんに、そして過去の自分にその言葉を伝えたかった。
「……だから、いらないなんて悲しい言葉をそんな簡単に受け入れないでください……っ」
凛太郎さんの心ない言葉になんの反論も反応も見せない蓮さんを思い出して、また声に涙の気配が纏ってきた。
おこがましい話だけれど、きっと僕は今の蓮さんと昔の僕を重ねてしまっている。だから余計に胸が苦しくて、どうにかしたかった。
たとえ大きなお世話でも、見当違いな慰めでも、何もしないことはできなかった。
僕は濡れた目元を手の甲で荒く拭ってから、顔を上げた。
「すみません……、なんか変に熱く語ってしまって。でも、どうしても伝えたくて……」
「別に謝ることじゃないし。……で、このデザートは結局何?」
苦笑する僕に蓮さんは袋の中のプリンを取り出して言った。
「それは、あの、僕が会社をクビになった日、コンビニスイーツを食べたら少しだけ元気が出て……。だから蓮さんにもどうかなぁ、と……」
言いながら、自分のしていることがひどく独り善がりに思えて、恥ずかしくなってきた。
か、顔が熱い……!
下を向いて赤くなった顔を隠した。
すると、フッと柔らかい笑いを含んだ吐息が頭上をかすめた。
「甘いもので元気になるって子供かよ」
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