35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「わぁ~、最後の最後まで安定のクソ野郎だったねぇ」

 純粋に感心した様子で桜季さんがパチパチと拍手をした。

「クソ野郎検定余裕で合格じゃん~」
「なんだよ、その検定。あいつはいつもあんな感じだ」

 蓮さんはごみ箱の横に落ちたビニール袋を拾いながら言った。

「レンコンの兄妹、本当にみんな似てないねぇ。上の兄二人がこんなので蘭香ちゃんみたいないい子が育ったのが不思議~」
「こんなんで悪かったな。……蘭香はちゃんとみんなに愛されて育ったから、だから俺みたいな奴にも優しく接せられるんだ」

 そう言うと、拾ったビニール袋をごみ箱に捨てた。

「……嫌じゃないんですか」

 僕は思わず訊いてしまった。蓮さんが怪訝そうに眉根を軽く寄せた。

「何が?」
「っ、さっきみたいに、凛太郎さんにいらない存在とか言われて嫌じゃないんですかっ」

 無意識に語調が強くなった。
 人の家庭の事情に踏み入るのが失礼であることは分かっている。
 それでも、凛太郎さんが言い残した〝いらない〟という、人に――ましてや家族に対して使うものとは思えない冷たい言葉が、そしてそれに対して何も感じていないような蓮さんの悲しいくらいの無表情が、頭から離れないのだ。
 蓮さんは小さく溜め息を吐いてから答えた。

「嫌も何も、あんな言葉をいちいち気にしていたらきりがない」
「……っ」

 とうの昔に全てを諦めきったような声に、僕は言葉を詰まらせた。心がひしゃげるような苦しさが胸に溢れる。
 泣きたくなるような気持ちを振り払って、僕は部屋を飛び出した。
 階段を駆け下りて夕暮れの気配が滲んだ辺りを見回す。もちろん凛太郎さんたちの車はない。
 奥歯をグッと噛み締めた。たとえ凛太郎さんがまだいたとしても何か言えるわけでもないけれど、それでも自分の不甲斐なさと悔しさに苦い気持ちが湧き上がる。
 僕は部屋には戻らず、そのまま駅へ続く道を走った。そして、目に入ったコンビニに駆け込んだ。
 カゴを持ってデザートの棚に直行する。呼吸を乱して次々とデザートをカゴに入れる僕を見て、店員さんが訝しげに目を細めていた。
 けれど、そんなことを気にする余裕は僕にはなかった。
 棚に置いてあったほぼ全種類のデザートをカゴに入れると僕はレジ台に向かった。

「これ、全部くださいっ」
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