上 下
195 / 228
第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

27

しおりを挟む
「よくも蘭香をこんな汚い所に隠してくれたな」
「違いますっ、私から隠れたんです!」
「そうそう~、おにーさんからどうしても隠れたかったみたいだよぉ。おにーさんがよっぽど嫌だったんだねぇ」

 ケラケラと笑う桜季さんの言葉に、凛太郎さんがキッと目尻を吊り上げた。

「うるさい、部外者は黙ってろ!」
「お~こわいこわい~。じゃあお口チャックしとこぉ」

 肩を竦めてそう言うと、桜季さんは腰を下ろしてテーブルの上のお菓子をぼりぼりと食べ始めた。

 ……桜季さん、心臓が強すぎます!

 凛太郎さんは何か言いたげに口を開いたけれど、石を呑み込むように顔を顰めてから再び蓮さんの方へ向き直った。

「お前が家を出る時、藤ヶ谷家とは一切関わらないと約束したはずだが。それを条件に金を出してやったことを忘れたのか」
「凛太郎兄様、違います! 私が無理矢理会いに来たんですっ」

 蘭香ちゃんがスーツの袖を引っ張って言い募ると、凛太郎さんの眉間の皺がますます深まった。

「……だとしても家に上げずに追い返すことだってできたはずだ。藤ヶ谷家に関わらないという約束を覚えていればな。全くこれだから馬鹿は困る」
「お兄様……っ!」
「蘭香、お前もお前だ」

 蘭香ちゃんの非難を低く冷たい声が遮った。

「一之宮さんとの会食を抜け出てこいつに会いに行くなんて言語道断」

 凛太郎さんに睨み据えられ蘭香ちゃんは口を噤んだ。
 ハァ、と凛太郎さんが大きく溜め息を吐く。

「フォローするのに俺がどれだけ大変だったと思ってるんだ。その上こいつに会いに行っていただなんて疲れと怒りでどうにかなりそうだ」
「……っ、私は最初から嫌と言いました! なにが会食ですか! あんなのお見合いじゃないですか!」

 蘭香ちゃんが目尻を吊り上げて声を荒らげた。反論が思いも寄らなかったのか、少しだけ凛太郎さんは怯んだ。

「そんなに怒らなくていいだろう。それにお見合いじゃない。ただの親睦を深めるための食事会だ」
「別に私は一之宮さんと親睦を深めたくありません」

 ぷいっ、と蘭香ちゃんが顔を背けた。凛太郎さんが目に見えて狼狽えた。

「お前は一之宮さんのことを勘違いしている。確かに決して格好いいわけではないがとても温和で……」
「温和だろうと十も年下の女の子と食事をしたいって思っているところが気持ち悪いです! それにあんなに太っていて……私、蓮兄様のように格好良くて優しい男性としかお付き合いしたくありませんっ」
「……っ!」

 蘭香ちゃんの言葉に、蓮太郎さんのこめかみにピキリと青筋が立った。しかし、その怒りは蘭香ちゃんではなく蓮さんに向けられた。

「お前は本当に……どこまで藤ヶ谷家の輪を乱すんだ……っ」

 憎々しげに吐き捨てる凛太郎さんの目は怒りに満ちていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

【完結・短編】game

七瀬おむ
BL
仕事に忙殺される社会人がゲーム実況で救われる話。 美形×平凡/ヤンデレ感あり/社会人 <あらすじ> 社会人の高井 直樹(たかい なおき)は、仕事に忙殺され、疲れ切った日々を過ごしていた。そんなとき、ハイスペックイケメンの友人である篠原 大和(しのはら やまと)に2人組のゲーム実況者として一緒にやらないかと誘われる。直樹は仕事のかたわら、ゲーム実況を大和と共にやっていくことに楽しさを見出していくが……。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【R18】平凡な男子が女好きのモテ男に告白したら…

ぽぽ
BL
"気持ち悪いから近づかないでください" 好きな相手からそんなことを言われた あんなに嫌われていたはずなのに… 平凡大学生の千秋先輩が非凡なイケメン大学生臣と恋する話 美形×平凡の2人の日常です。 ※R18場面がある場合は※つけます

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

処理中です...