35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「だから言っただろう。蘭香はここに来ていないって」
「でもあの靴は蘭香のものだ」

 玄関の方を振り返って食い下がる男に、蓮さんは溜め息を吐いた。

「だからそれも言った。あれはこいつの元カノのものだ」
「そんな話信じられるか!」
「モテるとそういうこともあるんだよぉ。モテる男はつらいよねぇ」
「この……っ」

 男は言い掛けたけれど、言葉で勝てる相手でないと悟ったのか、蓮さんたちを一睨みすると居間を出た。そしてトイレや風呂場のドアを荒々しく開けて蘭香ちゃんを探し始めた。
 けれど蘭香ちゃんの姿は見当たらない。

「……っ、蘭香をどこに隠した!」
「だからいないって言ってるだろう」

 うんざりした様子で蓮さんが肩を竦める。
 
「じゃあ蘭香はどこに……」
「さぁ? 俺と一緒であの家が嫌になって出て行ったんじゃねぇの?」
「蘭香をお前なんかと一緒にするな!」

 男は怒りに満ちた目で蓮さんを怒鳴りつけた。その瞬間、居間からガタッ、と鈍い音がした。
 感情的になっていた男だったけれど、その音を聞き逃さなかった。男は居間に戻ると、押し入れの襖を勢いよく開けた。

「蘭香……っ!」

 押し入れの上段で体操座りをしていた蘭香ちゃんが気まずそうに視線を逸らした。

「こんな汚いところ早く出ろ! どんな虫がいたか分かったもんじゃないっ」

 顔を青くして男が言った。アパートは確かに古いけれど過敏に反応するほど汚くはない。どうやら相当な潔癖症なようだ。
 蘭香ちゃんが頬を膨らませた。

「その言い方は蓮太郎兄様に失礼ですっ。謝ってください、凛太郎兄様」

 凛太郎兄様!?

 僕は目を見開いて、蘭香ちゃんと蓮さん、そして凛太郎兄様と呼ばれた男に視線を順に巡らせた。

 た、確かに、どことなく似ている気がする……。

 けれど、男――凛太郎さんの蓮さんへの態度はあまりに冷たく、とても兄弟とは思えなかった。

「なんで俺があいつに謝らないといけないんだ」

 凛太郎さんは蘭香ちゃんの言葉に苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

「とにかくそこから降りろ」

 凛太郎さんが蘭香ちゃんを受け止めようと両手を広げたが、蘭香ちゃんは「いいです、自分で降りられます」とすげなく断るとスタン、と軽やかに飛び降りた。
 凛太郎さんは蘭香ちゃんの服を丹念にはたいてから、蓮さんの方へ振り向いた。
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