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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「それなら来なきゃいいだろ」

 吐き捨てるようにして蓮さんが言った。
 二人がどんな関係かは分からないけれど、立ちこめる険悪な空気からして、決していい関係でないことは明らかだ。

「俺だって来たくなかったさ。お前の顔は二度と見たくないと思っていたし、見るつもりもなかった。……だが、蘭香が関わるなら話は別だ」

 男の嫌悪と侮蔑に満ちた目が鋭くなる。

「ここに、蘭香が来てるだろ?」
「来てねぇよ」

 さらりと嘘をついたが、男は全て見透かしているように鼻で笑った。

「お前は馬鹿か。よくもまぁ見え透いた嘘がつけるものだな。さすがあの男の子供だ。……その靴は蘭香のものだ」

 蓮さんの足元にお行儀良く並べられている蘭香ちゃんの靴を男が指差す。逃れようのない証拠に僕の方が冷や汗をかいた。
 けれど蓮さんは余裕のある様子で冷笑を男に向けた。

「アンタの方こそ馬鹿じゃねぇの。この靴の持ち主は全て蘭香だと思ってるのか? 安直すぎだろ。いい大学に行った割には頭が悪いな。それとも裏口入学でもさせてもらったのか」
「……挑発のつもりか? 馬鹿になんと言われようと痛くも痒くもない」

 男の冷たい目と声にゾッとした。こんなにも人に対して悪意を露わにする人を僕は初めて見た。
 男は蘭香ちゃんを探しているようだが、幸いにも磨りガラスの引き戸には桜季さんの影しか映っておらず、蘭香ちゃんの姿はちょうど壁で隠れている。
 けれど部屋に上がられたらすぐに見つかってしまう。早く帰って欲しいのに男は蓮さんと対峙した状態から少しも動く気配がなかった。
 剣呑な睨み合いに終止符を打ったのは男の溜め息だった。

「……時間の無駄だな」

 男はそう呟くと、スーツから携帯を取り出した。

「私だ。すまないが至急靴下を買ってきてくれ。何でもいい。コンビニの安物でもいい。とりあえず急ぎで頼む」

 電話の相手に一方的に言って男は電話を切った。

「よし、じゃあ蘭香を引き取らせてもらう」
「はぁ? ふざけんなっ」

 部屋に上がろうと靴を脱ぎかけた男の前に蓮さんがすかさず立ち塞がった。

「勝手に上がろうとしてんじゃねぇよ。ここには蘭香はいない。サッサと帰れ」

 蓮さんが肩を押してそう言うと、その部分を汚らわしそうにはたきながら男は口の端を歪めた。

「俺だってできればこんな汚い部屋に上がりたくない。だが蘭香がいるなら話は別だ」
「だからいねぇって言ってるだろ」
「いないなら証拠を見せればいい話だろ。父親譲りの女たらしっぷりで連れ込んだ女をな」
「っ、なんだとてめぇ……っ」

 一触即発の空気が一気に濃くなった。
 今にも殴りかかりそうなほど気が立っている蓮さんを宥めようとした時、

「ちょっと~、うるさいんだけどぉ」

 居間の引き戸を開けて桜季さんがいかにも迷惑そうに顔を顰めて現れた。
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