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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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「俺はいい兄じゃねぇよ。二十二にもなって六つ下の妹に心配かけてるんだから」
「でも心配かけないように、こうして僕に上司役を頼んだりしているじゃないですか。やっぱり蓮さんは、いいお兄さんです」
軽くあしらうことだってできるのに、こうして蘭香ちゃんに心配掛けさせまいとする蓮さんは紛れもなくいいお兄さんだ。
本心の言葉だけれど、蓮さんが居心地悪そうに視線を床に落として口を結んだので、話を変えた。
「僕は兄と弟がいますけど、どっちにも心配掛けてばかりで……」
毎週掛かってくる兄と弟からの電話を思い出して、苦笑しながら頭を掻いた。
「へぇ、お前、弟がいるんだ」
蓮さんは片眉を上げて意外そうに言った。
「弟と言ってもすごくしっかりしているのでどっちが兄か分からないですけどね」
「あー、そんな感じする。夏休みの宿題とか弟に手伝ってもらってそう」
「え! よく分かりましたね! そうなんですよ。大概、弟は夏休みの宿題をサッと終わらせてたんですよ。それでいつまでも宿題が終わらない僕を見かねて手伝ってくれていました」
「ははっ、すげぇ想像できる」
蓮さんが手の甲を口元に当てて笑った。
その表情には、いつも僕と接する時に見せる怪訝や警戒がなかった。なんだか打ち解けてもらえたようで嬉しかった。
「あの、蓮さん」
「ん、なに?」
「さっき桜季さんが言っていたことですけど……」
――青りんごのことよく褒めてるじゃん~。たまにヘマはするけど仕事は真面目だとか、掃除は完璧だとか――
桜季さんの言葉が本当なら、少なからず蓮さんが僕の仕事ぶりを評価してくれているということだ。
前に蓮さんからは「ホストに向いていない」「辞めた方がいい」と言われたことがあるので、そうだとしたらすごく嬉しい。あれから僕も少しは成長しているのだと思える。
自分のことを褒めてくれたのかと確認するのは恥ずかしい気もしたけれど、蓮さんの口からどうしても聞きたかった。
図々しい期待を胸に口を開きかけると、
――ピンポーン
鳴り響いたドアチャイムに出掛けた言葉が喉の奥に引っ込んだ。
「あ、ちょっとごめん」
蓮さんは一言謝って僕の横を通り過ぎると、玄関のドアを開けた。
ドアの向こうには蓮さんより少し年上くらいの眼鏡を掛けた男性が立っていた。
立派なスーツに身を包んだ男は、不機嫌そうに顔を顰めていた。ここに来ることが不本意だということがありありと伝わってくる表情だった。
男を認めた瞬間、蓮さんの横顔が明らかに強ばった。
「……こんな汚いところによく住めるものだな。うちの納屋の方がまだきれいなくらいだ」
男が鼻で笑って言った。まるで挑発するかのような蔑みっぷりだ。
「でも心配かけないように、こうして僕に上司役を頼んだりしているじゃないですか。やっぱり蓮さんは、いいお兄さんです」
軽くあしらうことだってできるのに、こうして蘭香ちゃんに心配掛けさせまいとする蓮さんは紛れもなくいいお兄さんだ。
本心の言葉だけれど、蓮さんが居心地悪そうに視線を床に落として口を結んだので、話を変えた。
「僕は兄と弟がいますけど、どっちにも心配掛けてばかりで……」
毎週掛かってくる兄と弟からの電話を思い出して、苦笑しながら頭を掻いた。
「へぇ、お前、弟がいるんだ」
蓮さんは片眉を上げて意外そうに言った。
「弟と言ってもすごくしっかりしているのでどっちが兄か分からないですけどね」
「あー、そんな感じする。夏休みの宿題とか弟に手伝ってもらってそう」
「え! よく分かりましたね! そうなんですよ。大概、弟は夏休みの宿題をサッと終わらせてたんですよ。それでいつまでも宿題が終わらない僕を見かねて手伝ってくれていました」
「ははっ、すげぇ想像できる」
蓮さんが手の甲を口元に当てて笑った。
その表情には、いつも僕と接する時に見せる怪訝や警戒がなかった。なんだか打ち解けてもらえたようで嬉しかった。
「あの、蓮さん」
「ん、なに?」
「さっき桜季さんが言っていたことですけど……」
――青りんごのことよく褒めてるじゃん~。たまにヘマはするけど仕事は真面目だとか、掃除は完璧だとか――
桜季さんの言葉が本当なら、少なからず蓮さんが僕の仕事ぶりを評価してくれているということだ。
前に蓮さんからは「ホストに向いていない」「辞めた方がいい」と言われたことがあるので、そうだとしたらすごく嬉しい。あれから僕も少しは成長しているのだと思える。
自分のことを褒めてくれたのかと確認するのは恥ずかしい気もしたけれど、蓮さんの口からどうしても聞きたかった。
図々しい期待を胸に口を開きかけると、
――ピンポーン
鳴り響いたドアチャイムに出掛けた言葉が喉の奥に引っ込んだ。
「あ、ちょっとごめん」
蓮さんは一言謝って僕の横を通り過ぎると、玄関のドアを開けた。
ドアの向こうには蓮さんより少し年上くらいの眼鏡を掛けた男性が立っていた。
立派なスーツに身を包んだ男は、不機嫌そうに顔を顰めていた。ここに来ることが不本意だということがありありと伝わってくる表情だった。
男を認めた瞬間、蓮さんの横顔が明らかに強ばった。
「……こんな汚いところによく住めるものだな。うちの納屋の方がまだきれいなくらいだ」
男が鼻で笑って言った。まるで挑発するかのような蔑みっぷりだ。
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