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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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 ……って、誰がどこに住もうと人の勝手だよね。

 妙な詮索をし始めた自分に気づいて、慌てて頭を振った。
 用を足してトイレから出ると、台所に蓮さんが立っていた。

「お茶入れ直すけど、お前もいるよな?」

 急須を軽く持ち上げて蓮さんが訊いてくれたので、僕は頷いた。

「ぜひお願いします。それにしてもいい香りですね」

 蓮さんの横に立って湯飲みを覗き見る。澄んだ緑茶の色と青みを含んだ瑞々しい香りに心が和む。

「新茶ですか?」
「知らねぇ。山中さんがお茶が好きでよくくれるけど、俺はお茶には詳しくない」
「へぇ、そうなんですか。いいですね、こんないい香りのお茶をもらえるなんて」

 やっぱり蓮さんは年配の方に好かれているようだ。
 最初このアパートに住む蓮さんを想像できなかったけれど、今では山中さんと一緒にこの部屋でお茶を啜る姿が容易に想像できる。お茶を呑んだ時のほっこりとした気持ちが胸に溢れた。
 
「……お前、何にやにや笑ってんだよ」

 怪訝そうに眉を顰める蓮さんに慌てて首を横に振った。

「にやにや笑ってなんていませんよ! ただ、年配の方にそんなに好かれてすごいなと思って。年齢問わずモテるなんてさすがです」
「馬鹿にしてんのか?」
「いえいえっ、馬鹿になんかしてないです! 本当にすごいことですよ。歳の離れた方とこんなに交流できてよくしてもらえてるなんて人徳ですね」

 本当にすごいなぁと心から思って言ったのだけれど、蓮さんは顔を顰めて顔を逸らした。

「そんな大層なもんじゃねぇよ。つーか、お前こそ年配に好かれそうだけどな」
「うーん、バスや電車の中で話し掛けられることはありますけど、蓮さんみたいに手作りのプレゼントをもらったりということはないですね」

 苦笑しながら答えると「あー、確かにヘラヘラしてるから声掛けやすそうだもんな」と妙に納得されてしまった。
 褒められているのか、貶されているのか分からない言葉に複雑な気持ちになっていると、

「……今日はありがとうな」

 ぽつり、と蓮さんが言った。

「え?」
「上司役をしてくれたことだよ。蘭香が『青葉さんみたいな優しい人がお兄様の上司でよかった』って安心してたからさ」

 目尻を和らげて蓮さんが言った。

「いい妹さんですね」

 柔らかな目尻を視線でなぞりながら僕が呟くと、「ああ、本当にできた妹なんだ」とどこか誇らしげに、そして愛おしそうに蓮さんは答えた。

「蓮さんもいいお兄さんですね」

 お世辞ではなく本当にそう思って言ったのだけれど、蓮さんは不可解そうに眉根を寄せた。
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