35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「蓮君」

 蘭香ちゃんと話しているところ申し訳ないけれど、僕は蓮さんに声を掛けた。
 切羽詰まった表情で急に声を掛けられ驚いたのだろう、蓮さんは少し目を丸くした。

「どうしました?」
「あの……」

 後輩然とした丁寧な態度だが、その瞳は怪訝そうな表情を浮かべていて少し怯む。
 でも、どうしても聞かなければならないことだ。

「……トイレ借りてもいいかな?」

 実は駅を出た後くらいからずっとトイレに行きたかったのだ。
 桜季さんの来訪でトイレを借りるどころではなかったけれど、蘭香ちゃんが思いの外桜季さんと打ち解けてくれたことでほっとしたためか、再び尿意が戻ってきた。

「あはは~、青りんごトイレ行きたかったのぉ? ……おれが手伝ってあげようかぁ?」

 桜季さんが悪戯っぽく笑って、するりと下腹部を軽く撫でた。

「ひ……っ!」

 冗談なのだろうけれど、尿意が限界地点まで達している僕には少し強すぎる刺激で体がびくりと跳ねた。

「ふふふ~、感じてる~。青りんごはほんとみだらなんだからぁ。仕方ないからいつも通り手伝ってあげ……ぐぇっ」

 悪ふざけを続行していかがわしい雰囲気を醸し出す桜季さんの頭にテレビのリモコンが直撃した。
 もちろんこんな容赦ないことをするのはこの場において一人しかいない。

「蘭香の前でイチャつくな」

 青筋を立て鬼の形相を見せる蓮さん。その横で蘭香ちゃんが赤面している。

 ……確かに教育上よくない。

「あはは、ごめんね、桜季君は冗談がすぎるところがあるから。さて、冗談はさておきトイレ借りるね」

 今がチャンスだとリモコンが直撃して隙が出来た桜季さんの腕の中から抜け出て立ち上がる。

「トイレは玄関のすぐ横です」
「ありがとう」
「青りんご~、困ったことがあったら呼んでねぇ」

 頭をさすりながらもう片方の手を緩く振って送り出す桜季さん。
 果たしてトイレに行ってここに戻るまでの間にそんな事態が起こるかは謎だけれど、僕は曖昧に笑ってトイレに向かった。



 居間も台所もきれいだったから、トイレもキレイだろうということは予想できていたけれど、花の飾りがついたトイレカバーやペーパーホルダーは予想外だった。
 恐らく、さっきの桜季さんの話からすると、ご近所のおばぁちゃんが作ってくれたものだろう。本当におばぁちゃんたちのアイドルなんだなぁと微笑ましい気持ちになって思わず笑みが零れた。……トイレの中でなければきっと蓮さんに「何笑ってんだ」と怒られていたに違いない。
 このアパートは、蘭香ちゃんに普通のサラリーマンであることを信じさせるために準備したものだと思っていたけれど、大家さんの態度や部屋の所々に見られる温かみ溢れる手作りの品から、どうやら蓮さんは本当にここに住んでいるようだった。
 そこでふと疑問が湧く。
 ナンバーワンホストであればもっといいところに住めそうなのに、どうしてここなんだろう……。
 借金があるなどの事情があるのだろうかと思ったけれど、蘭香ちゃんを見る限り家庭が貧窮しているとは考えにくい。
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