35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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 さらにとんでもない設定が盛られてしまい、僕は慌てて首を横に振った。そして何とか僕の頭を押さえつける手の力に逆らって顔を上げた。

「さ、桜季、くんっ!」

 桜季さんに抗議の声を上げる。かろうじてさん呼びはしなかったものの、心の中は大混乱だった。

「ん~? なぁに? 青りんご」

 にっこりと笑みを浮かべる桜季さんに抗議しようとしたところで、ハッとした。

 ……もしかして、話を合わせてあげるから桜季さんの設定にも合わせろってこと?

 無言で提示された交換条件に気づいて、たらりとこめかみに汗が伝う。
 桜季さんはいい人で、本当に人が嫌がることはしない。でも人が困るのを見るのが好きな悪戯好きな面もその優しさと矛盾せずに彼の中にあるのだ。
 僕は心の中で大きく溜め息を吐いてから、おずおずと口を開いた。

「……あの、子供の前で恥ずかしいからそういう話はやめて」

 うつむきながらなんとかそれらしい台詞をボソボソと呟く。
 この返答に僕が交換条件を飲んだことを察したのだろう、桜季さんは満面の笑みを浮かべた。

「ふふふ~、もう青りんごは本当に照れ屋さんなんだからぁ。未だに電気をつけてさせてくれないもんねぇ。まぁそこが可愛いんだけどぉ」

 上機嫌でそう言いながら桜季さんは僕の頭にちゅ、と軽くキスをした。
 全くもって本当のことなど一切ないのに、恋人然とした甘い振る舞いとベッドシーンを匂わせるような言葉に僕はカァァ、と耳まで熱くなった。

「さ、桜季君っ。子供の前だから」

 胸元を押して無理矢体を離すと、桜季さんは口を尖らせつつも僕の腰に巻いていた手を解いてくれた。

「ごめんねぇ、偶然会えた嬉しさでついつい調子に乗っちゃったぁ。君もごめんねぇ、驚かせてぇ」

 くるりと体を翻すと、桜季さんは蘭香ちゃんの方へ向き直った。
 いきなり自分に声を掛けられ驚きつつも蘭香ちゃんは姿勢を正して手を横に振った。

「い、いえ、大丈夫です」
「えっとぉ、青りんごの話からすると君はレンコンの妹ちゃんでいいのかなぁ?」

 桜季さんがこてんと首を傾ける。この子供のようなあどけない所作に少し緊張が解けたのか、蘭香ちゃんの強ばった表情が和らいだ。
 
「は、はいっ。妹の蘭香と申します。兄がいつもお世話になっています」

 正座したまましずしずと綺麗な所作で頭を下げる蘭香ちゃんに、桜季さんは軽く片眉を上げた。

「へぇ、お上品な子だねぇ。とてもレンコンの妹ちゃんとは思えなぁい」
「うるせぇ」
「おれは篝桜季っていいまぁす。お兄ちゃんの大親友だよぉ」
「嘘つくなっ。つーか、靴の持ち主を見たら帰るって言ってただろ。早く帰れ」

 親指で背後のドアを指差す蓮さんのこめかみには青筋が立っている。
 蘭香ちゃんの前で何とか抑えているんだろう……。
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