35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
181 / 228
第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

13

しおりを挟む
その落胆ぶりに、やっぱり女の子は恋愛の話が好きなんだなぁと苦笑する。
 
「ごめんね、いい情報をあげられなくて」
「いえいえ、青葉さんが謝ることじゃないです。悪いのは頑なに彼女の話をしてくれないお兄様です」

 可愛らしく唇と目を尖らせた蘭香ちゃんが蓮さんにあてつけがましく言った。

「いない彼女のことをどう話せっていうんだよ」

 何度も繰り返されてきた話題なのだろう。蓮さんはうんざりした様子で言ってお茶を啜った。
 けれど蘭香ちゃんは引き下がらない。

「絶対嘘ですっ。こんなにお兄様かっこよくて優しいんですもの。彼女がいないわけないです!」

 断言して疑いにかかる蘭香ちゃんに、蓮さんは困ったように溜め息を吐いた。

「そう思ってるのはお前だけだ」
「そんなことないです! ね、青葉さん! 青葉さんもそう思うでしょう?」
「え?」

 突然話題をこちらに振られ戸惑ったが、妙な間が空いては蘭香ちゃんに不審がられてしまう。
 僕は反射的に頷いた。

「うん、そうだね。僕もそう思うよ。会社の女の子たちも蓮君は優しいってよく話しているし、僕自身も蓮君は優しいなと思うよ」

 前半の会社の女の子がというのは嘘だけれど、後半は本当のことなのでおかげで淀みなく話すことが出来た。
 蓮さんは優しい人だ。お見舞いに持って来てくれたメロンや僕が好きだと知って集めてくれたフラキュアの人形、怪我の経過を気にする不安げな表情……、蓮さんとの関わりは多くないけれど彼の優しさに触れることは多々あった。

「ほら、やっぱりお兄様は優しくてかっこいいからモテるんですよ!」

 まるで鬼の首を取ったように胸を張る蘭香ちゃんに、蓮さんは閉口していた。

「別に俺がモテようとモテなかろうとどうでもいいだろ……」
「いいえ、どうでもよくありませんっ。だってお兄様には温かい家庭を築いて欲しいんですもの」

 蘭香ちゃんはそう言うと、両手で湯飲みを持ち一口啜ると、ふぅ、と小さく吐息を漏らした。

「私、お兄様には絶対に幸せになって欲しいんです。だから温かい家庭を一緒に作ってくれる優しい恋人がお兄様には絶対必要です」

 そう断定する蘭香ちゃんの口調は、決して押しつけがましいものではなく穏やかで心から兄の幸せを願っていることがよく分かった。
 けれど、どこかナイーブな話題に触れる緊張が微かに張り詰めているように感じた。
 蓮さんは目を軽く伏せて、持っていた湯飲みをことりと置いた。

「……俺には無理な話だ」

 ぼそりと蓮さんが答える。
 その答えが肌をかすめる程度に感じていた緊張を色濃いものにした。鈍い僕でも分かるほどだ。
 なんだかここに僕がいていいのかと落ち着かない気持ちになってそわそわしていると、
 ――ピンポーン
 軽やかなチャイムが緊張した空気を駆け抜けた。

「ちょっと出てくる」

 蓮さんは立ち上がると居間を後にした。

「すみません、空気を悪くしてしまって」

 蘭香ちゃんが申し訳なさそうな笑みを浮かべて言った。

「いや、別に大丈夫だよ。気にしないで」
「……青葉さんは私たちの家族についてお兄様に詳しく訊いてます?」

 ちらりと窺うように蘭香ちゃんが訊いてきた。僕は正直に首を横に振った。

「蓮君とはあまり家族の話とかはしたことがないなぁ。蘭香ちゃんが来ることを聞いた時も妹さんがいるんだってびっくりしたくらい」
「そうですか……」

 蘭香ちゃんは目を伏せ何か考えるように黙り込んだ。けれどしばらくすると、顔を上げて僕に向き直った。その真剣な面持ちに思わず僕も姿勢を正した。

「青葉さんにならきっと話しても大丈夫だと思うので話しますね。実は私たち……」
「だから帰れって言ってるだろう!」

 蓮さんの大きな声が居間を突き抜けて蘭香ちゃんの言葉を吹き飛ばした。
 僕らは丸くした目を見合わせた。
 どうしたんだろうと引き戸の向こうに耳を澄ませると、よく知った人物の特徴ある声が耳に届いた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

隣/同級生×同級生

ハタセ
BL
輪廻転生モノです。 美形側が結構病んでおりますので病んでる美形が好きな方には是非読んで頂けると有難いです。 感想いただけるとこの生き物は大変喜びます。

処理中です...