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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?
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その落胆ぶりに、やっぱり女の子は恋愛の話が好きなんだなぁと苦笑する。
「ごめんね、いい情報をあげられなくて」
「いえいえ、青葉さんが謝ることじゃないです。悪いのは頑なに彼女の話をしてくれないお兄様です」
可愛らしく唇と目を尖らせた蘭香ちゃんが蓮さんにあてつけがましく言った。
「いない彼女のことをどう話せっていうんだよ」
何度も繰り返されてきた話題なのだろう。蓮さんはうんざりした様子で言ってお茶を啜った。
けれど蘭香ちゃんは引き下がらない。
「絶対嘘ですっ。こんなにお兄様かっこよくて優しいんですもの。彼女がいないわけないです!」
断言して疑いにかかる蘭香ちゃんに、蓮さんは困ったように溜め息を吐いた。
「そう思ってるのはお前だけだ」
「そんなことないです! ね、青葉さん! 青葉さんもそう思うでしょう?」
「え?」
突然話題をこちらに振られ戸惑ったが、妙な間が空いては蘭香ちゃんに不審がられてしまう。
僕は反射的に頷いた。
「うん、そうだね。僕もそう思うよ。会社の女の子たちも蓮君は優しいってよく話しているし、僕自身も蓮君は優しいなと思うよ」
前半の会社の女の子がというのは嘘だけれど、後半は本当のことなのでおかげで淀みなく話すことが出来た。
蓮さんは優しい人だ。お見舞いに持って来てくれたメロンや僕が好きだと知って集めてくれたフラキュアの人形、怪我の経過を気にする不安げな表情……、蓮さんとの関わりは多くないけれど彼の優しさに触れることは多々あった。
「ほら、やっぱりお兄様は優しくてかっこいいからモテるんですよ!」
まるで鬼の首を取ったように胸を張る蘭香ちゃんに、蓮さんは閉口していた。
「別に俺がモテようとモテなかろうとどうでもいいだろ……」
「いいえ、どうでもよくありませんっ。だってお兄様には温かい家庭を築いて欲しいんですもの」
蘭香ちゃんはそう言うと、両手で湯飲みを持ち一口啜ると、ふぅ、と小さく吐息を漏らした。
「私、お兄様には絶対に幸せになって欲しいんです。だから温かい家庭を一緒に作ってくれる優しい恋人がお兄様には絶対必要です」
そう断定する蘭香ちゃんの口調は、決して押しつけがましいものではなく穏やかで心から兄の幸せを願っていることがよく分かった。
けれど、どこかナイーブな話題に触れる緊張が微かに張り詰めているように感じた。
蓮さんは目を軽く伏せて、持っていた湯飲みをことりと置いた。
「……俺には無理な話だ」
ぼそりと蓮さんが答える。
その答えが肌をかすめる程度に感じていた緊張を色濃いものにした。鈍い僕でも分かるほどだ。
なんだかここに僕がいていいのかと落ち着かない気持ちになってそわそわしていると、
――ピンポーン
軽やかなチャイムが緊張した空気を駆け抜けた。
「ちょっと出てくる」
蓮さんは立ち上がると居間を後にした。
「すみません、空気を悪くしてしまって」
蘭香ちゃんが申し訳なさそうな笑みを浮かべて言った。
「いや、別に大丈夫だよ。気にしないで」
「……青葉さんは私たちの家族についてお兄様に詳しく訊いてます?」
ちらりと窺うように蘭香ちゃんが訊いてきた。僕は正直に首を横に振った。
「蓮君とはあまり家族の話とかはしたことがないなぁ。蘭香ちゃんが来ることを聞いた時も妹さんがいるんだってびっくりしたくらい」
「そうですか……」
蘭香ちゃんは目を伏せ何か考えるように黙り込んだ。けれどしばらくすると、顔を上げて僕に向き直った。その真剣な面持ちに思わず僕も姿勢を正した。
「青葉さんにならきっと話しても大丈夫だと思うので話しますね。実は私たち……」
「だから帰れって言ってるだろう!」
蓮さんの大きな声が居間を突き抜けて蘭香ちゃんの言葉を吹き飛ばした。
僕らは丸くした目を見合わせた。
どうしたんだろうと引き戸の向こうに耳を澄ませると、よく知った人物の特徴ある声が耳に届いた。
「ごめんね、いい情報をあげられなくて」
「いえいえ、青葉さんが謝ることじゃないです。悪いのは頑なに彼女の話をしてくれないお兄様です」
可愛らしく唇と目を尖らせた蘭香ちゃんが蓮さんにあてつけがましく言った。
「いない彼女のことをどう話せっていうんだよ」
何度も繰り返されてきた話題なのだろう。蓮さんはうんざりした様子で言ってお茶を啜った。
けれど蘭香ちゃんは引き下がらない。
「絶対嘘ですっ。こんなにお兄様かっこよくて優しいんですもの。彼女がいないわけないです!」
断言して疑いにかかる蘭香ちゃんに、蓮さんは困ったように溜め息を吐いた。
「そう思ってるのはお前だけだ」
「そんなことないです! ね、青葉さん! 青葉さんもそう思うでしょう?」
「え?」
突然話題をこちらに振られ戸惑ったが、妙な間が空いては蘭香ちゃんに不審がられてしまう。
僕は反射的に頷いた。
「うん、そうだね。僕もそう思うよ。会社の女の子たちも蓮君は優しいってよく話しているし、僕自身も蓮君は優しいなと思うよ」
前半の会社の女の子がというのは嘘だけれど、後半は本当のことなのでおかげで淀みなく話すことが出来た。
蓮さんは優しい人だ。お見舞いに持って来てくれたメロンや僕が好きだと知って集めてくれたフラキュアの人形、怪我の経過を気にする不安げな表情……、蓮さんとの関わりは多くないけれど彼の優しさに触れることは多々あった。
「ほら、やっぱりお兄様は優しくてかっこいいからモテるんですよ!」
まるで鬼の首を取ったように胸を張る蘭香ちゃんに、蓮さんは閉口していた。
「別に俺がモテようとモテなかろうとどうでもいいだろ……」
「いいえ、どうでもよくありませんっ。だってお兄様には温かい家庭を築いて欲しいんですもの」
蘭香ちゃんはそう言うと、両手で湯飲みを持ち一口啜ると、ふぅ、と小さく吐息を漏らした。
「私、お兄様には絶対に幸せになって欲しいんです。だから温かい家庭を一緒に作ってくれる優しい恋人がお兄様には絶対必要です」
そう断定する蘭香ちゃんの口調は、決して押しつけがましいものではなく穏やかで心から兄の幸せを願っていることがよく分かった。
けれど、どこかナイーブな話題に触れる緊張が微かに張り詰めているように感じた。
蓮さんは目を軽く伏せて、持っていた湯飲みをことりと置いた。
「……俺には無理な話だ」
ぼそりと蓮さんが答える。
その答えが肌をかすめる程度に感じていた緊張を色濃いものにした。鈍い僕でも分かるほどだ。
なんだかここに僕がいていいのかと落ち着かない気持ちになってそわそわしていると、
――ピンポーン
軽やかなチャイムが緊張した空気を駆け抜けた。
「ちょっと出てくる」
蓮さんは立ち上がると居間を後にした。
「すみません、空気を悪くしてしまって」
蘭香ちゃんが申し訳なさそうな笑みを浮かべて言った。
「いや、別に大丈夫だよ。気にしないで」
「……青葉さんは私たちの家族についてお兄様に詳しく訊いてます?」
ちらりと窺うように蘭香ちゃんが訊いてきた。僕は正直に首を横に振った。
「蓮君とはあまり家族の話とかはしたことがないなぁ。蘭香ちゃんが来ることを聞いた時も妹さんがいるんだってびっくりしたくらい」
「そうですか……」
蘭香ちゃんは目を伏せ何か考えるように黙り込んだ。けれどしばらくすると、顔を上げて僕に向き直った。その真剣な面持ちに思わず僕も姿勢を正した。
「青葉さんにならきっと話しても大丈夫だと思うので話しますね。実は私たち……」
「だから帰れって言ってるだろう!」
蓮さんの大きな声が居間を突き抜けて蘭香ちゃんの言葉を吹き飛ばした。
僕らは丸くした目を見合わせた。
どうしたんだろうと引き戸の向こうに耳を澄ませると、よく知った人物の特徴ある声が耳に届いた。
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