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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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 蓮さんから「俺の会社の上司なんだから敬語は使うなよ。あと蓮さんって言うのもなしだ。いいな?」と念を押されているのだ。
 蓮さんは僕の言葉にカッと目を見開いた。その形相に思わずひっと身を竦める。

 もしかして僕のぎこちない口調が悪かったのだろうか……!

 けれど蓮さんは僕には目もくれず、蘭香ちゃんの両肩をガッと掴むと彼女に詰め寄った。

「大丈夫だったか? 変なことされてないか? どっか触られたとかないか?」
「大丈夫です、お兄様。青葉さんがすぐに助けに入ってくれたので何の問題もありませんでした」

 表情を少し険しくして心配そうに詰め寄る蓮さんを宥めるようにして蘭香ちゃんが答える。
 その答えにほっと息を吐きつつも、蓮さんは再度厳しい表情を作って蘭香ちゃんに向き直った。

「だからあまり一人でうろうろするなと何回も言っておいただろ」
「ごめんなさい。でも予定より早い新幹線に乗って来たので時間が空いてしまって。それで先にお土産を買っていたんです」

 紙袋を持ち上げて見せて笑う蘭香ちゃんに、蓮さんは溜め息を吐いた。

「そんなの俺たちと合流してからでいいだろう。田舎と違って都会は変な奴が多いんだからな」
「ふふふ、お兄様ったら心配性なんだから。でも実際に昔変質者に連れ去られそうになったのはお兄様の方じゃないですか」
「あ、あれは小さい頃の話だろっ。とにかく、お前はもっと危機感を持って」
「ふふふ、はいはい分かりました」

 心配して小言を言う蓮さんを笑顔で聞き流す蘭香ちゃんは、とても楽しげで、ようやく年相応の笑顔が見られた気がした。
 お兄ちゃんらしく妹を心配する蓮さんもまた微笑ましく、思わず頬が綻ぶ。
「あ、置いてけぼりにしてしまってごめんなさい。今日はお休みの日にわざわざ会ってくださってありがとうございます」

 蘭香ちゃんは僕の方に向き直ると、深々と頭を下げた。
 蓮さんが事前に僕のことを――というより設定を話してくれていたようだ。それで僕の名前を聞いた時、蓮さんの上司ではないかと思ったそうだ。

「あ、いや、そんな頭を下げないで。僕が勝手を言って来ただけだから」

 ……という設定になっている。
 肩を竦めるようにして蓮さんが言った。

「青葉さん、妹が来るって言ったら会ってみたいってしつこくて」

 ……という設定になっている。

 全て蓮さんが考えた設定だけれど、あらためて考えると、随分と図々しい上司だな……。

 こういう図々しい上司は早々に退散した方がいい。

「あはは、兄妹水入らずのところ本当にごめんね。でも蓮君の妹さんって言うからきっと可愛いだろうなと思ったら気になって。それじゃあ僕はここで失礼するね。どうぞごゆっくり」

 蓮さんからあらかじめ与えあられた台詞をそらんじながらその場を立ち去ろうとすると、

「あ、お待ちくださいっ」

 蘭香ちゃんが僕の服の裾を掴んで引き留めた。
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