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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「どうしました?」
「あの、もし時間があればお願いがあるんだけど、新幹線の改札口ってどこにあるか教えて貰っていいかな? 人と待ち合わせをしていて……」

 さっき助けたばかりの少女に道を聞くのはなんとも格好がつかないけれど、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。
 少女は少しだけ目を丸くして、口元に手を当てた。

「あら、奇遇ですね。私もそこで待ち合わせをしているんです。よければ一緒に行きましょう」
「え! 本当に? あぁ、よかった。ありがとうっ」

 彼女の心強い言葉に、辿り着かなかったらどうしようという不安が一気に霧散した。
 少女がくすりと笑った。

「いえいえ、お安いご用です。あ、名乗るのが遅くなってすみません。私、藤ヶ谷蘭香(ふじがや らんか)と申します。どうぞよろしくお願いします」
「あ、僕は青葉幸助です。どうぞよろしく」

 礼儀正しく自己紹介をする蘭香ちゃんに、僕も慌てて名乗って頭を下げた。
 すると蘭香ちゃんが目を丸くした。

「青葉さんって……もしかして藤ヶ谷蓮太郎の上司の方ですか?」
「え?」

 ****


 改札口近くのコンビニの壁にもたれかかってスマホをいじっている蓮さんに僕は目を見張った。
 蓮さんのまばゆいほどの金髪が真っ黒に染められていたからだ。一瞬誰だか分からなかったけれど、蘭香ちゃんはすぐに気づいた。
 
「あ、お兄様」

 手を振って軽やかな足取りで駆け寄る蘭香ちゃんの後ろから遅れて僕もついて行った。

「お兄様~!」

 蘭香ちゃんの声に気づいた蓮さんはスマホから顔を上げた。そして彼女の姿を認めると、柔らかく目元を緩ませた。
 それはホストの時とはまた違う種類の優しい笑みだった。

「お、蘭香、久しぶ……」

 手を振り返す蓮さんの動きが、後ろから気まずげについてくる僕と目が合うと止まった。

「……あれ、青葉さんどうしたんですか?」

 蓮さんが笑顔で僕に問い掛ける。いや、あの笑っていない目の圧力は、問い詰めると言った方が正しいのかもしれない。
 僕は強ばった表情筋を何とか動かして笑顔らしきものを作り、さてどう弁解しようと考えていると、

「ふふふ、先に青葉さんとお会いしてしまいました。青葉さんがしつこいナンパから助けてくださったんです」

 蘭香ちゃんがにっこりと笑って答えた。
 な、なんていい子なんだ……!
 道に迷った僕をここまで案内したという情けない事実は隠して僕を立ててくれた蘭香ちゃんに感謝の気持ちがとまらない。
 彼女の気遣いを無駄にしてはならないと、僕はコクコクと頷いた。

「そう、そうなん……だよ! 怖そうな人たちに囲まれていて、知り合いの振りしてその場から逃げたんだけど、まさか蓮君の妹さんだったとはびっくりしたよ~」

 敬語になりそうになった語尾を慌てて呑み込んで、ぎこちないため口で話す。
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