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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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「ふぅん、仲いいんだな」
「はい!」

にこにこと笑顔で即答する幸助に胸のもやもやは霧のように濃くなっていく。

「意外だな。アンタくらいの歳になるとみんな家庭や仕事が大変で友達とは疎遠になるものだと思ってた」
「あはは……、悲しいことに僕も晴仁も結婚していないですから」
「つまりモテない男同士でつるんでるってことか」
「いやいや! 晴仁はモテるんですよ! ものすごく!」

聖夜の毒を含んだ冗談に、幸助が珍しく反論した。

「へぇ、そんなにモテるんだ」
「モテモテです! この仕事につくまで晴仁以上にモテる人を見たことがなかったくらいですから」

なぜか当人でない幸助が得意げに胸を張った。

「なんで、アンタが自慢げなんだよ……。じゃあ。アンタは暇だろうけど、ハルヒトさんには彼女いるんじゃねぇの?」
「それがいないんですよ。驚きでしょう?」
「いや、俺はハルヒトさんがどんな人か知らねぇし」
「たぶん聖夜さんも会ったらびっくりすると思いますよ。この人に恋人がいないなんて……! って」
「会う予定ねぇし」
「じゃあ今度うちにぜひ遊びにきてください! きっとびっくりしますよ」

さらっと家に誘われて、ガラにもなくドキッとしてしまったが、すぐに話の流れの違和感に気づき首を傾げた。

「つーか、なんでハルヒトさんに会うのにアンタの家に行かないといけな……って、もしかしてアンタ、その男と一緒に住んでるのか!?」

驚いて最後の方はほぼ叫び声に近いものになってしまった。
そのせいで周りの視線が集まったが、それどころじゃない。
幸助は聖夜の驚きようにきょとんとしていたが、すぐに笑顔を浮かべ頷いた。

「そうなんですよ。あれです、ルームシェアというやつです!」
「いやいやいやいや、三十五にもなった男がルームシェアって……」

お金がない若者がするならまだ分かる。
しかし、幸助はともかく、三十五でしかもモテるとなれば少なくとも一人で暮らせるくらいのお金はあるはずだ。
それなのになぜわざわざ一緒に住んでいるのか……。
その答えはすぐに幸助から提示された。

「あはは、僕があまりお金がないので、晴仁の家に住まわせてもらってるんです」

頭をかきながら幸助が説明した。
なるほどと納得しかけて、また首を傾げる。

「うちは確か寮があるよな。あそこに住めばいいんじゃないか」
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