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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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「仕方ないなぁ、それじゃあ可愛いあおりんに免じてメニュー表を見るのを許可します! ……ただし制限時間十秒」
「え?」
「はい、はじめ! いーち、にー……」

可愛らしい声で始まったカウントダウンに、幸助は慌ててメニュー本を開いた。

「え、えっと、テラス……あ、いや、テラっ、テラカワ、ユス……?」

覚えようとと必死に呟いているがまるで英語を暗記するかのように難しい顔になっている。
そして、あっという間に時間制限になってしまった。

「はぁい! あおりん、時間切れ~! さぁ、注文をどうぞ!」

メニュー本をバンッ! と閉じられ、幸助は「ひ!」と悲鳴のような声を上げた。
その目は涙ぐんでいる。
これ以上は幸助が気の毒な気がして、聖夜は助け船を出した。

「『テラカワユスwwうさたんパフェ』と『起こしちゃだめ!おひるね中のふたごのくまたんオムライス』あとパフェはこの特大パフェチケットで」

淀みなく品名を言い上げる聖夜に、幸助とみかりんは目を丸くしたが、すぐにみかりんの方が姿勢を正して「かしこまりました、ご主人様~。少々お待ちくださいませ」と踵を返し去って行った。

「聖夜さん、すごいですね!」

幸助が目を輝かせて尊敬の眼差しを向けてくる。
これがお世辞でも、オーバーリアクションでもないから困ったものだ。
嬉しいようないたたまれないような恥ずかしさで胸がこそばゆくなる。

「……別にすごくねぇよ。普通に記憶力があれば覚えられるだろう」
「その普通の記憶力が僕にはないんですよ」

あははは、と頭を掻きながら笑う幸助に、笑いに似た溜め息が口から零れる。
幸助のこういったところが好ましいと思う。
年齢を重ねるほど変な見栄をはる人が多い中、彼のように等身大の自分を笑って曝け出せるのはすごいことだ。
自分も幸助と出会うまでは変な見栄をはって、オタク趣味をひた隠しにしていたから、なおさらすごいと感じるのかもしれない。

「まぁ、アンタも三十五だしな。老化じゃねぇの?」
「ち、違いますよ! 年齢は関係ないです! 僕の記憶力が悪いだけで年齢に罪はありません!」

歳のせいにしてしまえばいいのに、三十五という年齢を庇う幸助の変な真面目さに苦笑する。

「いや、俺より十年以上古い脳みそだからな。ガタがきてるんじゃねぇの?」
「僕のはそうかもしれませんが、みんながみんな僕みたいというわけじゃないですよ! 晴仁は同い年だけど記憶力すごくいいですし」

幸助が誇るようにして言った“晴仁”という名前にピクリと眉が動いた。

「……そういえばハルヒトさんってよく名前は聞くけど、友達?」

幸助の会話でよく出てくる名前だ。
恐らく友人だろうが、他の人間の名前より遙かに頻出するので何となく気になっていた。

「そう、僕の自慢の友達です」

恥ずかしげもなく、誇らしげに言い切る幸助は可愛いが、それでも胸がもやもやする。
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