35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
157 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

5

しおりを挟む
「仕方ないなぁ、それじゃあ可愛いあおりんに免じてメニュー表を見るのを許可します! ……ただし制限時間十秒」
「え?」
「はい、はじめ! いーち、にー……」

可愛らしい声で始まったカウントダウンに、幸助は慌ててメニュー本を開いた。

「え、えっと、テラス……あ、いや、テラっ、テラカワ、ユス……?」

覚えようとと必死に呟いているがまるで英語を暗記するかのように難しい顔になっている。
そして、あっという間に時間制限になってしまった。

「はぁい! あおりん、時間切れ~! さぁ、注文をどうぞ!」

メニュー本をバンッ! と閉じられ、幸助は「ひ!」と悲鳴のような声を上げた。
その目は涙ぐんでいる。
これ以上は幸助が気の毒な気がして、聖夜は助け船を出した。

「『テラカワユスwwうさたんパフェ』と『起こしちゃだめ!おひるね中のふたごのくまたんオムライス』あとパフェはこの特大パフェチケットで」

淀みなく品名を言い上げる聖夜に、幸助とみかりんは目を丸くしたが、すぐにみかりんの方が姿勢を正して「かしこまりました、ご主人様~。少々お待ちくださいませ」と踵を返し去って行った。

「聖夜さん、すごいですね!」

幸助が目を輝かせて尊敬の眼差しを向けてくる。
これがお世辞でも、オーバーリアクションでもないから困ったものだ。
嬉しいようないたたまれないような恥ずかしさで胸がこそばゆくなる。

「……別にすごくねぇよ。普通に記憶力があれば覚えられるだろう」
「その普通の記憶力が僕にはないんですよ」

あははは、と頭を掻きながら笑う幸助に、笑いに似た溜め息が口から零れる。
幸助のこういったところが好ましいと思う。
年齢を重ねるほど変な見栄をはる人が多い中、彼のように等身大の自分を笑って曝け出せるのはすごいことだ。
自分も幸助と出会うまでは変な見栄をはって、オタク趣味をひた隠しにしていたから、なおさらすごいと感じるのかもしれない。

「まぁ、アンタも三十五だしな。老化じゃねぇの?」
「ち、違いますよ! 年齢は関係ないです! 僕の記憶力が悪いだけで年齢に罪はありません!」

歳のせいにしてしまえばいいのに、三十五という年齢を庇う幸助の変な真面目さに苦笑する。

「いや、俺より十年以上古い脳みそだからな。ガタがきてるんじゃねぇの?」
「僕のはそうかもしれませんが、みんながみんな僕みたいというわけじゃないですよ! 晴仁は同い年だけど記憶力すごくいいですし」

幸助が誇るようにして言った“晴仁”という名前にピクリと眉が動いた。

「……そういえばハルヒトさんってよく名前は聞くけど、友達?」

幸助の会話でよく出てくる名前だ。
恐らく友人だろうが、他の人間の名前より遙かに頻出するので何となく気になっていた。

「そう、僕の自慢の友達です」

恥ずかしげもなく、誇らしげに言い切る幸助は可愛いが、それでも胸がもやもやする。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

幼なじみ祭

葉津緒
BL
親衛隊による制裁の現場で、意外な出来事が。 王道・脇役・平凡・嫌われ→?

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

噂の補佐君

さっすん
BL
超王道男子校[私立坂坂学園]に通う「佐野晴」は高校二年生ながらも生徒会の補佐。 [私立坂坂学園]は言わずと知れた同性愛者の溢れる中高一貫校。 個性強過ぎな先輩後輩同級生に囲まれ、なんだかんだ楽しい日々。 そんな折、転校生が来て平和が崩れる___!? 無自覚美少年な補佐が総受け * この作品はBのLな作品ですので、閲覧にはご注意ください。 とりあえず、まだそれらしい過激表現はありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 その場合はもちろん年齢制限をかけますが、もし、これは過激表現では?と思った方はぜひ、教えてください。

ライバル視していた隣国の魔術師に、いつの間にか番認定されていた

地底湖 いずみ
BL
魔法ありの異世界に転生をした主人公、ライ・フォールは、魔法学園の成績トップに君臨していた。 だが、努力をして得た一位の座を、急に現れた転校生である隣国の男、ノアディア・サディーヌによって奪われてしまった。 主人公は彼をライバルと見なし、嫌がらせをしようとするが、前世の知識が邪魔をして上手くいかず、いつの間にか彼の番に認定され──── ────気づかぬうちに、俺はどうやら乙女ゲームの世界に巻き込まれていたみたいだ。 スパダリヤンデレ超人×好きを認めたくない主人公の物語。 ※更新速度 : 中

処理中です...