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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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「ご主人様、お待たせ致しました~!」
しばらくすると、さっき入り口でじゃんけんをしたメイドの弾んだ明るい声がこちらに向かってきた。
スマホでゲームをして待っていた聖夜は顔を上げた。
せっかくいいところだったのに、という不満はメイドと一緒に現れた幸助の姿に吹き飛んでしまった。
スマホが手から滑り落ちても固まったままの聖夜に、メイドは誇らしげに微笑んだ。
「ちょ、お、おまえ……」
「今日は、見習いメイドも一緒に同席させていただきます! あおりんです~! 私はあおりんのフォローに入らせて頂くみかりんです!」
嬉々として紹介するメイド、みかりんの横で、俯く幸助は自分の妄想が見せる幻覚ではなく、紛れもなくメイドの格好をしていた。
スカート丈はさすがに配慮しているのか、膝丈であるが、黒地に白いフリルがあつらわれたそれは可憐であり、男が着るのは確かに罰ゲームに違いない。
「うぅ……、は、恥ずかしいです……」
消え入りそうな声でそう言って、不安げにぎゅっとスカートを握るその仕草に、まるで自分の心臓を握られたような甘い心地になる。
(や、やべぇ、可愛い……!)
本来、メイド服と男というその似合わなさを笑うところだが、聖夜にはその恥じらう姿が可愛く見えてしまい、本音が漏れないよう口元を手でおさえるのがやっとだった。
「さぁさぁ、あおりん、ここに座って! 今日はこのご主人様にたっぷりご奉仕してね!」
みかりんはそう言うと、幸助を聖夜の前の席に座らせた。
「それでは、ご注文がお決まりになったら、あおりんに言ってください!」
「え!? 僕が注文をとるんですか!?」
「そうですよ! 注文をきいたら、あおりんは私を呼んでね!」
そう言うとウィンクを残してみかりんは去って行った。
心細そうにその背中を見詰めていた幸助だったが、聖夜の視線に気づくと顔を赤くしてそのまま机に突っ伏した。
「す、すみません! 見ないでください……!」
頭に被った大きな白いキャップから震えた声が漏れ出た。
(な、なにこの生き物……! 可愛すぎるだろ……!)
キャップを両手でぎゅっと引っ張りながらその中に隠れようとでもするかのような仕草に、心の中で身悶える。
「……あー、とりあえず顔上げろよ。そのままじゃあ無駄に時間が過ぎるだけだろ。さっさと注文して食べてさっさと出ようぜ」
この姿をもっと堪能したい気持ちはあったが、泣き出しそうな三十五歳が哀れに思い励ますと、幸助はバッと顔を上げた。
「そ、そうですね! 早く注文して、早く食べて、一刻も早くここを出ましょう!」
気を取り直したのか、幸助はメニュー本を勢いよく広げて聖夜の方へ差し向けた。
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