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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

おまけ 1-1

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平日の昼間にも拘わらず、駅前通りは人で溢れていた。
というのもこの街が、大規模なオタク街でありオタクはもちろん観光客も足を運ぶからでもある。

駅前にある独特な、しかしそれ故に待ち合わせ場所としてうってつけな銅像にもたれながら聖夜は幸助が来るのを待っていた。

(……まだかよ)

腕時計をちらりと見る。
待ち合わせ時間の十分前だ。
まだ姿を見せなくても何ら不思議ではない。
しかしこれでは先に来た自分だけがこの日を楽しみにしていたみたいで恥ずかしいし、腹立たしい。
もう一度時計を見る。
時間が止まっているかのように針が動いた気配がない。
こんなにも時計の針に対してイライラしたのは初めてのことだった。

「あ、聖夜さーん!」

待ち人の声に心臓が跳ね上がった。
声の方を振り返ると、幸助が走ってこちらに向かっていた。

「す、すみません、お待たせしてしまって……」

膝に手をついて乱れた呼吸を整えながら幸助が謝る。
待ち合わせの時間の十分前なのに、相手を待たせたことを素直に謝るところが彼らしい。

「別に、そんなに待ってねぇよ。この前にあった用事が予定より少し早く終わったから、早めに着いただけだ」

対して自分は待ち合わせ時間より早く来たことが恥ずかしく、弁解のように嘘を並べる。
そんな嘘に気づく様子なく、幸助は顔を上げると「よかったぁ」とほっとしきった笑みを浮かべた。

(……可愛い)

一般的に言えばそれは、地味で冴えない、自分より十以上年上の男に対して、同じ男が抱く感情ではないだろう。
しかし可愛く見えてしまうのだ。

「それじゃあ行くぞ」

邪心を振り払うようにしてぶっきらぼうに言うと、聖夜は歩き始めた。
その後ろを慌てて自分に追いつこうと小走りになる足音が追ってきた。
そんな目に見えない足音さえ可愛いと思ってしまうから自分はかなり重症だ。

「特大パフェのチケットってこの間連れて行ってくれたメイド喫茶のですよね?」
「うん、そう。アンタがだせぇウサ耳つけたところ」
「ちょ、ちょっ、恥ずかしいこと思い出させないでくださいよ」

顔を赤くしながら狼狽える幸助に聖夜は喉元で笑った。

「いいじゃん。なかなか似合っていたよ」
「う、嬉しくないです……。あ! まさか今日もそういうのをつけたりとかないですよね?」

身構える幸助に苦笑しながら答えた。

「大丈夫、大丈夫。今日は通常通りだから」
「そうですか、それならよかったです」

ほーっと幸助が息をついた。
どうやら前回のウサギ耳が相当堪えていたようだ。

(……あれはあれで結構可愛かったけどな)

そんなこと口に出せるはずもなく、緩みそうな口の端にぎゅっと力を入れて、歩みを少し早めた。
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