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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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「お、お花と仲良しラララ~、フラキュア~、お花は友達ラララ~~、悲しいときはいつも寄り添ってくれるお花さんたち~、ラランラ~ン」
ホールにいるみんなが目を丸くして顔を強ばらせている。
音程の外れた歌声だけでも顔を顰めるほど不快なのに、その声で可愛らしい歌をいい歳をしたおじさんが熱唱するのだから不協和音以外の何ものでもないだろう。
でもここで引くわけには行かない
「……は、花の精よ、我ら戦士に力を与え給え。フラキュア・ラブエナジー!」
シン……、とホールが静まり返り、ノリのいい音楽だけがやたら鮮明に響いた。
みんな目を見開いて僕を凝視している。
片膝を曲げ、手を前にかざしてフラキュアのポーズをとる三十半ばの男を目の前にしたら当然の反応かもしれない。
僕は恥ずかしくなっておずおずと手と足を下ろした。
「……というわけで、今回の件は僕の趣味に聖夜さんを巻き込んだだけです! すみませんでした!」
そう言ってもう一度深く頭を下げると、
「……なんだ、そういうことか」
「だよね、聖夜がこんな趣味あるとかありえないもんね」
辺りに安堵と納得が広がる。
よかった……。
なんとか誤魔化せたようだ。
階下の聖夜さんの方を見ると、聖夜さんが目を見開いて僕を見上げていた。
なんだかその顔が泣き出しそうな脆い気配を漂わせていたので、僕は安心させるように微笑みを向けた。
僕らの視線の会話を遮るように、愛良さんが聖夜さんに抱きついた。
「もぉ、びっくりしたじゃない! でも聖夜がこんなキモいところ行くわけないもんね!」
「あ、ああ……そうだよ、行くわけないだろ」
「聖夜は優しすぎだよ~。あんなおじさんの趣味につきあってあげるなんて」
ぎゅっと聖夜さんの腕に胸を押し当てながら愛良さんが階段をのぼる。
聖夜さんも王子様のようなやさしい微笑みを浮かべている。
よかった、何もかも元通りだ。
ほっと胸をなで下ろしていると、僕の横を通り過ぎようとした愛良さんが突然足を止め、僕の方を振り返った。
その目は今まで聖夜さんに向けていた甘さが嘘のように、鋭い憎悪の光をたぎらせていた。
そして次の瞬間、彼女の手が僕の頬を叩いた。
「アンタの気持ち悪い趣味に聖夜を巻き込まないで! 二度と聖夜に近づかないで! 迷惑!」
怒りに満ちた声でそう言うと、すぐに聖夜さんの方へ向き直り「聖夜、行こ」と歩き始めた。
聖夜さんがちらりと僕の方を心配そうに振り返る。
僕は「大丈夫です」という意味を込めて笑ってみせた。
ホールにいるみんなが目を丸くして顔を強ばらせている。
音程の外れた歌声だけでも顔を顰めるほど不快なのに、その声で可愛らしい歌をいい歳をしたおじさんが熱唱するのだから不協和音以外の何ものでもないだろう。
でもここで引くわけには行かない
「……は、花の精よ、我ら戦士に力を与え給え。フラキュア・ラブエナジー!」
シン……、とホールが静まり返り、ノリのいい音楽だけがやたら鮮明に響いた。
みんな目を見開いて僕を凝視している。
片膝を曲げ、手を前にかざしてフラキュアのポーズをとる三十半ばの男を目の前にしたら当然の反応かもしれない。
僕は恥ずかしくなっておずおずと手と足を下ろした。
「……というわけで、今回の件は僕の趣味に聖夜さんを巻き込んだだけです! すみませんでした!」
そう言ってもう一度深く頭を下げると、
「……なんだ、そういうことか」
「だよね、聖夜がこんな趣味あるとかありえないもんね」
辺りに安堵と納得が広がる。
よかった……。
なんとか誤魔化せたようだ。
階下の聖夜さんの方を見ると、聖夜さんが目を見開いて僕を見上げていた。
なんだかその顔が泣き出しそうな脆い気配を漂わせていたので、僕は安心させるように微笑みを向けた。
僕らの視線の会話を遮るように、愛良さんが聖夜さんに抱きついた。
「もぉ、びっくりしたじゃない! でも聖夜がこんなキモいところ行くわけないもんね!」
「あ、ああ……そうだよ、行くわけないだろ」
「聖夜は優しすぎだよ~。あんなおじさんの趣味につきあってあげるなんて」
ぎゅっと聖夜さんの腕に胸を押し当てながら愛良さんが階段をのぼる。
聖夜さんも王子様のようなやさしい微笑みを浮かべている。
よかった、何もかも元通りだ。
ほっと胸をなで下ろしていると、僕の横を通り過ぎようとした愛良さんが突然足を止め、僕の方を振り返った。
その目は今まで聖夜さんに向けていた甘さが嘘のように、鋭い憎悪の光をたぎらせていた。
そして次の瞬間、彼女の手が僕の頬を叩いた。
「アンタの気持ち悪い趣味に聖夜を巻き込まないで! 二度と聖夜に近づかないで! 迷惑!」
怒りに満ちた声でそう言うと、すぐに聖夜さんの方へ向き直り「聖夜、行こ」と歩き始めた。
聖夜さんがちらりと僕の方を心配そうに振り返る。
僕は「大丈夫です」という意味を込めて笑ってみせた。
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