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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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「いらっしゃいませー」

ほどなくして聖夜さんが店にやって来た。
その横には頬を甘く緩ませた愛良さんがいて、密着するように腕を絡ませていた。
ピリピリとした空気を醸し出していたユキさんとの会話は続かず、気まずい思いをしていたので僕はほっとした。

「あ、聖夜さん来たみたいです! よかったですね。もう少ししたらたぶんこっちのテーブルにも来られると……」

ガタン!

突然、僕の話を遮るようにユキさんが立ち上がった。
そしてバックを持って席を立った。
迷いのない強い足取りでズンズンと進んでいく。
明らかに様子がおかしい。
いきなりのことで反応が遅れたけれど、僕も慌てて彼女の後を追った。
ユキさんはVIPルームに続くホールの中心にある裾広がりの階段を駆け上り、一番上の段でホールの方へくるりと振り返った。
階下の、ちょうどVIPルームに向かおうとしていた聖夜さんを冷たく一瞥すると、次の瞬間、口の端を嫌な感じで吊り上げた。
そして深く息を吸い込んで口を開いた。

「みなさーん! お聞きください!」

さっきまでボソボソと喋っていたのが嘘のように通る声で叫んだ。
音楽や談笑で賑わうホールにその声が響いたのは、声の大きさだけでなく、悪意を孕んだ歪な気配が感じられたからかもしれない。
みんなの視線が自分に集まったのを認めて、彼女の笑みは一層不穏な気配を濃くした。

「ここホストクラブのナンバーツーホストの聖夜は王子なんかではありません! みなさん! 騙されてますよ!」

そう言い放つと同時に、ユキさんはバックから手の平ほどの紙を大量に取り出し、階上からばらまいた。
ヒラヒラと落ちてきた紙は写真だった。
それを一枚拾い上げて僕は目を見開いた。
その写真は、メイド喫茶に行った僕と聖夜さんが写っていた。

「え……なにこれ……」
「うそ、これ聖夜!?」

辺りにどよめきが広がった。
お客さんもホストたちも驚きを隠せずにいた。
聖夜さんは拾い上げた写真を見て唖然としている。
その様子に満足したかのようにユキさんは口元の笑みを深めた。

「みなさん! 騙されないでください! こいつは、メイド喫茶に行く気持ち悪いただのオタクです!」

ユキさんに指差され聖夜さんの顔が強ばった。
その表情は傷ついたようでもあった。

「オタクがホストとかやってんじゃねぇよ! 気持ち悪い! ホストやめろ!」

とどめを刺すように言い放つと、ユキさんは不気味な笑い声をまき散らしながら階段を駆け下り、他のホストの制止を振り切って店を後にした。
残ったのは、困惑と疑惑に満ちたざわめきだった。
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