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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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予想外の反応に僕はたじろぎつつも「は、はい」と答えた。

「映画だけぇ? 他には~?」

ズイと顔を近づけて詰め寄る桜季さんの顔は真顔で、僕は目をお泳がせながら答えた。

「え、えっと、お昼に喫茶店に行ったのと、そのあとゲームセンターに行ったくらいです」
「なにそれ!? 普通にデートじゃん!」

え? デート?

桜季さんの言葉にきょとんとなる。

「ずるいずるい~! 仲良しのおれを差し置いて青りんごとデートするなんてぇ! 青りんごもひどいよぉ!」

さっきより激しく体を揺らされて、首がガクンガクンとなる。

う……! 地味に痛い……!

首の骨に小さなヒビが少しずつ積もっていっているような不安を覚える。

「ちょ、ちょっと桜季さん、く、首が……。それにそもそもデートって……」

若い男女なら確かにデートとなるだろうけれど、出掛けたのは僕と聖夜さんだ。
男同士、しかも僕のようなおじさんと聖夜さんのような若くてかっこいい男の子という組み合わせ。
どこからデートなんて甘い言葉が出てくるのだろう。
不思議だ。
それとも今の若い子たちは同性同士のお出かけでも相手への親愛を込めてデートと言うのだろうか。

「おれも青りんごとデートする~! ね? いいでしょぉ?」
「あ、はい、僕でよければもちろんです」
「やったぁ! じゃあ、まずは映画観てぇ、その後は遊園地行ってぇ、それから動物園行ってぇ、夜は夜景がきれいなレストランでディナーして~」
「も、盛りだくさんですね」

僕の体が持つだろうか……。
そんなスケジュールだったら次の日に寝込んでしまいそうだ。

「あ! 最後はホテルがいい? おれの家がいい?」
「え! 泊まるんですか!」
「当たり前じゃぁん。泊まらないとかコース料理でメインディッシュがないみたいなものだよぉ」

いつのまにお出かけの話からお泊まりの話になったのだろう?
桜季さんは頭の回転がはやいのかよく話題が目まぐるしく変わる。

「うーん、そうですね。桜季さんの家にもおじゃましてみたいですが、せっかく外に出掛けたならその流れでホテルもよさそうですね」

答えながら、そういえば最近旅行をしていないことに気づいた。
少し奮発していいホテルか旅館に泊まってリフレッシュというのもよさそうだ。
右京君や蓮さんを誘って親睦と気分転換を兼ねて旅行を計画するのもいいかもしれない。
まだなにも決まっていないのになんだか想像するとわくわくしだした。

「ホテルねぇ。了解~! じゃあサービスとか設備がいいところ探しとくねぇ」
「いいですね! 最近はマッサージとかのサービスもありますしね!」
「青りんごマッサージ好きなのぉ? 分かったぁ、いいオイル買っておくねぇ。ふふふ、楽しみ~」

桜季さんは上機嫌に鼻歌を歌いながらトイレを去って行った。

「旅行かぁ……、いいな」

口からうっとりとした溜め息が零れた。

よし! これは旅行のためにも仕事を頑張らなければ!

俄然、仕事にやる気が芽生え、僕はトイレの便器を力一杯磨き始めた。
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