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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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「聖夜が職場で人と話してるなんて珍しいねぇ。しかも青りんごと。え~、なになに~、仲良しこよしなのぉ?」
好奇心で目を輝かせながら、桜季さんが軽やかな足取りでこちらにやって来る。
「……別に」
聖夜さんは顔から表情を消して、ふいと顔を背けた。
「ひどぉい。青りんごには笑ってたのにぃ」
「……見てたのかよ」
聖夜さんは忌々しそうに舌打ちをした。
「なんか内緒話してるみたいだったからついね~」
悪びれもなく言う桜季さんに、聖夜さんは諦めにも似た溜め息を漏らしてそのまま僕らに背を向け歩き出した。
ドアを開けたところで一度振り返り、
「……くれぐれも口を滑らせんなよ」
それだけ言い置いてその場を後にした。
「え~! なになにどういうことぉ? 教えてよぉ~」
駄々をこねるように言って、桜季さんは僕の肩を持ってガクガクと前後に揺らした。
「え、いや、ちょっと……。でもたいしたことじゃないですよ」
「あ~怪しい~! 人間『ちょっと』って言うときは大概なにか隠したいことがある時なんだよぉ」
う……っ。そうかもしれない……。
でも昨日のことは本当に隠すような後ろ暗いことはないと僕自身は思っている。
ただ、聖夜さんが黙っていてほしいと言うのだ。
話すわけにはいかない。
けれど、桜季さんは僕からちゃんとした返答をもらわないと離してくれそうにない雰囲気だ。
桜季さんの目からは、取り調べの刑事のような真意を探ろうとする詰問の視線が放たれている。
僕は心の中で聖夜さんに謝りながら口を開いた。
「……実は昨日、聖夜さんと映画を観に行ったんです。その時にちょっとカツアゲにあって大変だった、ということだけです」
嘘じゃない。
本当のことだ。
ただ、聖夜さんが公にしたくない事実を隠しているだけだ。
この話の流れだときっと誰もが『カツアゲ』という言葉に食いつくはずだ。
そうなれば自然と聖夜さんが触れてほしくない話題からは逸れていくだろう。
そう思っていたけれど、
「えぇ!? 映画ぁ!? ふたりで~!?」
桜季さんは目を丸くして映画を見に行ったことに反応した。
好奇心で目を輝かせながら、桜季さんが軽やかな足取りでこちらにやって来る。
「……別に」
聖夜さんは顔から表情を消して、ふいと顔を背けた。
「ひどぉい。青りんごには笑ってたのにぃ」
「……見てたのかよ」
聖夜さんは忌々しそうに舌打ちをした。
「なんか内緒話してるみたいだったからついね~」
悪びれもなく言う桜季さんに、聖夜さんは諦めにも似た溜め息を漏らしてそのまま僕らに背を向け歩き出した。
ドアを開けたところで一度振り返り、
「……くれぐれも口を滑らせんなよ」
それだけ言い置いてその場を後にした。
「え~! なになにどういうことぉ? 教えてよぉ~」
駄々をこねるように言って、桜季さんは僕の肩を持ってガクガクと前後に揺らした。
「え、いや、ちょっと……。でもたいしたことじゃないですよ」
「あ~怪しい~! 人間『ちょっと』って言うときは大概なにか隠したいことがある時なんだよぉ」
う……っ。そうかもしれない……。
でも昨日のことは本当に隠すような後ろ暗いことはないと僕自身は思っている。
ただ、聖夜さんが黙っていてほしいと言うのだ。
話すわけにはいかない。
けれど、桜季さんは僕からちゃんとした返答をもらわないと離してくれそうにない雰囲気だ。
桜季さんの目からは、取り調べの刑事のような真意を探ろうとする詰問の視線が放たれている。
僕は心の中で聖夜さんに謝りながら口を開いた。
「……実は昨日、聖夜さんと映画を観に行ったんです。その時にちょっとカツアゲにあって大変だった、ということだけです」
嘘じゃない。
本当のことだ。
ただ、聖夜さんが公にしたくない事実を隠しているだけだ。
この話の流れだときっと誰もが『カツアゲ』という言葉に食いつくはずだ。
そうなれば自然と聖夜さんが触れてほしくない話題からは逸れていくだろう。
そう思っていたけれど、
「えぇ!? 映画ぁ!? ふたりで~!?」
桜季さんは目を丸くして映画を見に行ったことに反応した。
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