35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
139 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

30

しおりを挟む
「……おい、掃除全然できてねぇじゃねぇか」

コツコツと近づく靴音とともにトイレ内に響いた声に、その場にいるみんなが顔を向けた。

「あ……!」

現れた人物に僕は安堵の声を漏らした。

「聖夜さん!」
「清掃中っていうならもう一回やり直せよ。テメェらの舌で、っ!」

言うやいなや、聖夜さんは長い脚で手前の不良の顎を目がけて蹴り上げた。

「っぐぁ!」

顎を蹴られふらついた不良は脇腹をさらに横蹴りされあっけなく倒れてしまった。
残り二人の少年は、聖夜さんに睨まれると脱兎のごとく仲間を置いて逃げ出した。
立ち去った不良少年の背中を見送ってから聖夜さんはくるりと僕の方を振り返った。
そして、大きな溜め息を吐いた。

「アンタなにオタク狩りに合ってるんだよ」
「オ、オタク狩り……?」
「フィギュアとか買うために大金持って来ている弱そうなオタクを狙ったカツアゲだよ」

聖夜さんが忌々しげに吐き捨てた。

そ、そんな狩りがあるとは……!

親父狩りは前に話題になってニュースで聞いたことがあるけど、まさかそんな言葉まであるとは知らなかった。

「助けてくれてありがとうございました。でもどうしてここが分かったんですか?」
「さっきメイド喫茶で撮った写メ見せて聞き回ったんだよ。そしたら可愛い女子高生とトイレに向かって行ったって話を聞いたんだよ」
「え! さっきの写真を見せたんですか!」
「緊急事態だ、仕方ないだろ」
「う……」

仕方ないとはいえ、あの姿を他の人に見られたと思うと恥ずかしい。
さっきまでこの場を逃げ出したくてしょうがなかったのに、今はここを出るのが怖い……。

「ほら、さっさと立てよ。今度こそレアもん引いてくれんだろう?」

そう言って聖夜さんが手を差し伸べた。
不良少年とは違うあたたかさが溢れる手だ。

「……はい!」

僕は笑顔でその手を握って立ち上がった。

「ふふふ」
「なんだよ、急に笑って気持ちわりぃ」

つい笑いが零れてしまった僕に、聖夜さんが怪訝そうに眉を顰めた。

「あ、すみません。いやぁ、やっぱり聖夜さんは王子様だなぁと思って」
「はぁ!?」

聖夜さんが顔を顰めた。

「いや、ピンチの場面に颯爽と現れて救い出すなんて王子様みたいじゃないですか」

相手が可愛いお姫様じゃなく中年の僕という点を除けばの話だけれど。

「僕の立ち位置が愛良さんだったら完璧なお姫様と王子様の図でしたけどね。うーん、残念」

なんだか完璧な構図を汚したようで申し訳なくて苦笑すると、

「……俺はアンタでいい」
「え?」
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

美形でヤンデレなケモミミ男に求婚されて困ってる話

月夜の晩に
BL
ペットショップで買ったキツネが大人になったら美形ヤンデレケモミミ男になってしまい・・?

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

処理中です...