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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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メイド喫茶で食事を終えてから、僕らは近くのゲームセンターに立ち寄った。
聖夜さんはガチャポンの機械の前で立ち止まると、僕の方を振り返った。
「金は俺が出すから、これ回して」
これ、と言って聖夜さんが指さしたのはフラキュアのガチャポンだった。
「え、いいですけど、自分で回さなくていいんですか?」
僕は聖夜さんの頼みに少し戸惑った。
何が出るかわくわくしながら回すのが醍醐味のガチャポンを、僕が回してもいいのだろうか。
「こういうのは無欲の勝利って言って、欲がない奴のほうがいいのを引きやすいんだよ。アンタならレアものが出る気がする」
「無欲というより無知だと思いますけど……。とりあえずやってみますね」
聖夜さんの真顔に気圧され、僕は苦笑しながらガチャポンを回すという大役を引き受けた。
ガチャポンのハンドルを握る。
その手に聖夜さんの懇願にも似た視線が注がれる。
プ、プレッシャーだ……!
僕は祈るように目をつぶってハンドルを回した。
――ガチャン
ハンドルを回すと、聖夜さんからのプレッシャーなど意に介さないほどのあっけなさでガチャポンの商品が出てきた。
聖夜さんが商品を開けた。
中身を見ただけでは、それが珍しいものなのかそうじゃないかは分からなかったけれど、聖夜さんの顔を見ればそれは一目瞭然だった。
「……っ、しゃあ! フラワープリンセスバージョンの紅葉たんゲットォォォ!」
雄たけびに近い声を上げて、聖夜さんはガッツポーズした。
周りの人たちはその興奮ぷっりに目を丸くして通り過ぎていった。
「マジで無欲の勝利の法則すげぇ! よし! もう一回頼む」
聖夜さんは嬉々とした様子でお金をガチャポンの機械に投入した。
「え、でも、まぐれかもしれませんし……」
「大丈夫、大丈夫」
聖夜さんは僕の手首を掴んでガチャポンのハンドルを握らせた。
キラキラと期待に輝く視線が僕の手に注がれる。
うっ、プレッシャーだ……。
深呼吸してなるべく無心を装いながらハンドルを回した。
--ガチャン
「……っしゃあぁぁ! レアもの二個目ゲット! アンタ、マジすごいわ!」
尊敬とも呼べる眼差しを向けられ、僕はこそばゆい気持ちになった。
こんなに人に褒められたのは久しぶりかもしれない。
手の中のガチャポンの商品を見ながら、顔を緩ませる聖夜さんはとても嬉しそうだ。
人をこんなに喜ばせることも久しぶりで、僕もつられて笑みが零れた。
「それじゃあ、もう一回頼む!」
聖夜さんがまたお金を入れた。
よし! 次はもっとすごいの引くぞ!
二回連続でレアなものが出て変に自信がついた僕は、意気揚々とハンドルを回した。
しかしそれがいけなかったのか、出てきた商品に聖夜さんの顔から興奮の熱気が一気に消えた。
「……あ~、通常版紅葉たんかぁ。まぁ可愛いけどもう死ぬほど持ってるからやるよ」
苦笑しながら聖夜さんはガチャポンの商品を僕に渡した。
少し落胆の影が見えるその笑みに、僕は申し訳ない気持ちになった。
「す、すみません。いいのを引き当てられなくて……」
「いや、むしろ二回連続レアもの出た方がすごいし」
「……実は最後少し欲が出てしまいまったのでそれがよくなかったのかもしれません」
「欲?」
聖夜さんは片眉を上げた。
「はい。聖夜さんにもっとすごいって言われたくて、ついもっといいのが当たるといいなって思ったんです」
いい歳した大人が褒められたいために欲を出すとはなんとも恥ずかしい話だ。
僕は苦笑しながら頭を掻いた。
聖夜さんは僕の情けない告白にポカンとしていたけれど、しばらくすると「バ、バカじゃねぇの!」と言いながら顔を赤くした。
「よくそんな恥ずかしいこと言えんな! 俺でもそんなこと言わねぇよ!」
「す、すみません……」
確かに大の大人が褒められたいと思うのは恥ずかしい話だ。
「……ちょっと小銭崩してくる」
「え?」
「もう札しかないから小銭に両替してくるって言ったんだよっ。……次はいいの出せよ」
「は、はい!」
両替機に向かう聖夜さんを見送りながら、次こそいいもの出すぞと意気込んでいると、
「あ、あのぉ、すみません……」
振り向くとブレザーの制服を着た女子高生が困り果てた顔で立っていた。
目元には涙の気配すら漂っている。
「ちょっとお願いがあるんですけど……」
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