35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
135 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

26

しおりを挟む
「僕の昔話になってしまうんですけど、高校の時、僕映画同好会に入っていたんです。ただ映画を観て感想を言い合う地味な会だったんですが、『根暗な奴が集まってそう』『映画とかつまんねぇ』とか言われることもあったんです」

部活勧誘の時に、実際に言われた言葉だ。
その言葉を裏付けるように入部希望者はなかなか現れなかった。
悔しかった。
大好きな映画を馬鹿にされたみたいで、すごく悔しかった。
そして、“みんな"が映画に対してそういう印象を持っているのかと思うと悲しかった。

「悔しかったし、悲しかったです。でも一番嫌だったのは、映画を好きなことが他の人には根暗に見えたり、映画がつまらないと思われてると思うと、映画が大好きなのに、なんだか映画を好きなことが恥ずかしいことのように思えてきたことでした」

映画を好きな気持ちは変わらなかったけれど、でも映画好きということを恥じることが、映画に対して失礼なような裏切ってるような気がして、そんな自分が嫌だった。

「でも、そんな時、テツ君……あ、オーナーが無理矢理でしたけど映画同好会に入ってくれて、それで僕が勧めた映画を観て『映画ってこんなに面白いんだな』って言ってくれたんです」

テツ君のその言葉に、笑顔に、ハッとした。

「その時、気づいたんです。僕を傷つけた言葉を“みんな”が思っているわけじゃないんだ。何人かが言った言葉が僕の中で大きくなって、勝手に“みんな”がそう思っているって思い込んでいただけなんだ、って」

その証拠に、目の前のテツ君は笑って面白いと言ってくれた。

「目の前に映画を面白いと言ってくれる人がいること、僕が映画を大好きなこと、それだけは間違いなく事実で、知らない人の、ましてやみんななんていう姿形のない人の意見に振り回されて、映画好きなことを少しでも恥じたことが、すごく時間の無駄に思えました」

そんな時間があるなら一本でも多く映画を観るべきだった。

「確かに映画をつまらないと思う人もこの世の中にはたくさんいると思います。でも、それはいろんな人がいっぱいいるから仕方ないことだし、悪いことじゃないと思います。だからといって、自分と違う意見に合わせる必要もないと思います。僕は映画が好き。そして同じように映画が好きな人も僕の周りにいてその人と映画の面白さをわかり合えること。それだけで十分、そう思うんです」

いろんな人がいて、いろんな意見が無数に存在するこの世界で、どれかひとつだけを正解だとか真実だとかにすることは不可能だし、そうする必要なんてない。
自分が感じることが自分の中の正解で、誰かの中の不正解。
知らない誰かの正解に合わせる必要もないし、そもそもそんなこと不可能だ。
だから、自分が大好きという自分の中の正解をとことん信じて貫き通す。
きっとこれが趣味を楽しむ最大のコツだと思う。

「今日の聖夜さんは、すごく素敵でしたよ。好きなものについてあんなに熱く、しかも分かりやすく話せるのもすごいですし、映画館で泣いていた女の子を笑顔にできたのも聖夜さんが持っていたグッズのおかげですし。それにフラキュアは本当に面白かったです! 今まで子供向けだからと言って観ていなかったのがもったいないくらいです! ……だからもしフラキュア好きなことが『一般的にはキモいって思われてる』って思うなら、その時は今僕が言った言葉を思い出してください。それで“みんな”がキモいと思っているわけじゃないことを思い出してください。あと、フラキュアが大好きだという聖夜さんの気持ち。それが何より大切で、大事にするものだと思います」

たくさんの意見が混在する世の中で、自分の気持ちこそ何よりの道しるべなのだから。
それさえ見失ったら僕らはきっと迷子になってしまう。

聖夜さんが大きな溜め息を吐いた。
聖夜さんの眉間からは、いつの間にか皺は消えていた。

「……アンタ、熱く語りすぎ」
「あ! す、すみません! つい自分の過去と重ねてしまって……」

聖夜さんに指摘されて恥ずかしくなった。
若い子からしたら説教好きのおじさんに見えたかもしれない。

「語り好きのオタク顔負けだ」

そう言って、聖夜さんは笑った。
そこには自嘲の色は微塵もなかった。

「……つーか、頭にそんなのつけてたら、いい話も台無しだな」
「え? ……あ!」

言われて、自分がウサギ耳をつけていることを思い出して、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
顔を突っ伏して恥ずかしさに悶えている僕に、聖夜さんは喉の奥で堪えるように笑った。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

隣/同級生×同級生

ハタセ
BL
輪廻転生モノです。 美形側が結構病んでおりますので病んでる美形が好きな方には是非読んで頂けると有難いです。 感想いただけるとこの生き物は大変喜びます。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

処理中です...