35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
132 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

23

しおりを挟む

****

映画館を出てバスに揺られること十分。
大型電気店などが建ち並ぶ街に着いて、さらに五分ほど歩くと、赤煉瓦のビルの前で聖夜さんは足を止めた。
そのビルの看板には『メイド喫茶☆萌えランド』と書いてあった。

「か、勘違いすんなよ! 別にメイド属性とか俺にはないからな! ただ、ネットでフラキュア上映中ここのメイドがフラキュアコスしてて紅葉たんに似てる子がいるって噂をきいたから、どんだけのもんか見てやろうと思っただけだ!」
「……すごい! 本物のメイド喫茶だ!」
「……は?」
「僕、メイド喫茶なら知ってますよ! 前にテレビで観たことがあります! 若い人の間で流行ってるんですよね?」

今まで聖夜さんの話すことは知らないことばかりだったけれど、メイド喫茶は知っている。
それが嬉しくて思わず得意げになってしまった。
そんな僕に呆れたのかポカンとしていた聖夜さんだけど、しばらくするとフッと小さく笑った。

「別に若い奴みんなってわけじゃねぇけど……。まぁいいや。入るぞ」
「はい! わぁ、楽しみです。確か、おかえりなさいませって言うんですよね?」
「そうそう」
「すごいですね、お金持ちになった気分を味わえそうです」

聖夜さんの後に続いてビルの階段をのぼる。
その足は思わず浮き足立ってしまった。

扉は街中のビルのものとは思えない、装飾の凝った木の扉だった。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

扉を開けた途端、フラキュアの衣装を着た可愛い女の子が笑顔で出迎えてくれた。
メイド姿を想像していたけれど、そういえば聖夜さんが今はフラキュア期間だと言っていたことを思い出した。

お客さんのことをご主人様だと呼ぶ店だということは知っていたけれど、実際に呼ばれると恥ずかしいというか、実際の自分は全くご主人様と呼ばれるような身分でないことがなんだか店員さんを騙しているようで申し訳ないような後ろめたい気持ちになった。

「はじめてなんだけど、二人。フリータイムで」
「かしこまりました! では、こちらが萌えランドに入るための招待状でございます。萌えランドのルールに同意頂けるようでしたら、サインをお願いします!」

渡された紙はピンク色の可愛らしいもので、中にも可愛いキャラクターのイラストが描かれている。
ただ、書いている内容は、店内での注意事項やお店のシステムなど意外と現実的なもので、見た目の可愛らしさとのギャップに少し驚いた。
聖夜さんは慣れているのか軽く目を通すと署名欄にサインをした。

「それでは席までご案内いたします。こちらへどうぞ!」

店員さんについて行くと、中は壁も家具も赤と白を基調にした可愛らしい空間だった。
フラキュア期間ということでか、壁にはフラキュアのポスターが貼られており、テーブルの上にはマスコットキャラクターのフラリスとキュアルのぬいぐるみが並べられていた。
フラリスがウサギに似た生き物で、キュアルが猫に似た生き物だ。
どちらも目がクリクリとしていて、物語の中では「~~フラ」とか「~~キュア」という言葉を語尾につけてしゃべっている。

「どうぞ、こちらにおかけになってください」

店員さんが丁寧に椅子を引いてくれたので僕は恐縮して「どうもすみません」と謝りながら腰を下ろした。

「ご主人様。今日はありがとうございます! ここでフラキュアあすかからお願いがあります」

そう言うと店員さんはポケットからへバンドをふたつ取り出した。
ただのヘアバンドではない。
ウサギ耳とネコ耳がついたものだ。
今から店員さんがつけるのだろうか?
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。 11/21 本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

処理中です...