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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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映画館を出てバスに揺られること十分。
大型電気店などが建ち並ぶ街に着いて、さらに五分ほど歩くと、赤煉瓦のビルの前で聖夜さんは足を止めた。
そのビルの看板には『メイド喫茶☆萌えランド』と書いてあった。
「か、勘違いすんなよ! 別にメイド属性とか俺にはないからな! ただ、ネットでフラキュア上映中ここのメイドがフラキュアコスしてて紅葉たんに似てる子がいるって噂をきいたから、どんだけのもんか見てやろうと思っただけだ!」
「……すごい! 本物のメイド喫茶だ!」
「……は?」
「僕、メイド喫茶なら知ってますよ! 前にテレビで観たことがあります! 若い人の間で流行ってるんですよね?」
今まで聖夜さんの話すことは知らないことばかりだったけれど、メイド喫茶は知っている。
それが嬉しくて思わず得意げになってしまった。
そんな僕に呆れたのかポカンとしていた聖夜さんだけど、しばらくするとフッと小さく笑った。
「別に若い奴みんなってわけじゃねぇけど……。まぁいいや。入るぞ」
「はい! わぁ、楽しみです。確か、おかえりなさいませって言うんですよね?」
「そうそう」
「すごいですね、お金持ちになった気分を味わえそうです」
聖夜さんの後に続いてビルの階段をのぼる。
その足は思わず浮き足立ってしまった。
扉は街中のビルのものとは思えない、装飾の凝った木の扉だった。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
扉を開けた途端、フラキュアの衣装を着た可愛い女の子が笑顔で出迎えてくれた。
メイド姿を想像していたけれど、そういえば聖夜さんが今はフラキュア期間だと言っていたことを思い出した。
お客さんのことをご主人様だと呼ぶ店だということは知っていたけれど、実際に呼ばれると恥ずかしいというか、実際の自分は全くご主人様と呼ばれるような身分でないことがなんだか店員さんを騙しているようで申し訳ないような後ろめたい気持ちになった。
「はじめてなんだけど、二人。フリータイムで」
「かしこまりました! では、こちらが萌えランドに入るための招待状でございます。萌えランドのルールに同意頂けるようでしたら、サインをお願いします!」
渡された紙はピンク色の可愛らしいもので、中にも可愛いキャラクターのイラストが描かれている。
ただ、書いている内容は、店内での注意事項やお店のシステムなど意外と現実的なもので、見た目の可愛らしさとのギャップに少し驚いた。
聖夜さんは慣れているのか軽く目を通すと署名欄にサインをした。
「それでは席までご案内いたします。こちらへどうぞ!」
店員さんについて行くと、中は壁も家具も赤と白を基調にした可愛らしい空間だった。
フラキュア期間ということでか、壁にはフラキュアのポスターが貼られており、テーブルの上にはマスコットキャラクターのフラリスとキュアルのぬいぐるみが並べられていた。
フラリスがウサギに似た生き物で、キュアルが猫に似た生き物だ。
どちらも目がクリクリとしていて、物語の中では「~~フラ」とか「~~キュア」という言葉を語尾につけてしゃべっている。
「どうぞ、こちらにおかけになってください」
店員さんが丁寧に椅子を引いてくれたので僕は恐縮して「どうもすみません」と謝りながら腰を下ろした。
「ご主人様。今日はありがとうございます! ここでフラキュアあすかからお願いがあります」
そう言うと店員さんはポケットからへバンドをふたつ取り出した。
ただのヘアバンドではない。
ウサギ耳とネコ耳がついたものだ。
今から店員さんがつけるのだろうか?
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