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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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太陽は分厚い雲に覆われほとんどその光を地上に降らせることなく、辺りは砂埃が舞う薄闇に満ちていた。
街は、立ち並ぶビルが半壊し、荒れ果てていた。
「……うっ」
腕に怪我を負った紫々乃がふらつきながらも、何とか立ち上がった。
しかし、その表情は痛みで苦しげに歪んでいた。
「ハハハ! 言い様だな、フラキュアパープル」
空に浮かぶ黒いマントを纏った男が紫々乃を見下ろしながら笑った。
紫々乃は男を睨み付けた。
「インドール伯爵! 人質なんて卑怯よ!」
「何とでも言え。我らに刃向かう者はどんな手段を使ってでも潰すまでだ。くたばれ! この忌々しい小娘が!」
インドール伯爵はそう言って、杖を振り上げた。
すると杖の先に邪悪な色をした光が灯り、それは一瞬にして鋭利な切っ先の形となって紫々乃に向かって放たれた。
紫々乃は自分に訪れるであろう痛みに耐えるようにして目をぎゅっと瞑った。
しかし、いつまで経っても痛みも衝撃も彼女の体にはやってこなかった。
紫々乃は恐る恐る目を開けた。
彼女の視界に赤い髪がふわりとなびいた。
「……! 紅葉!」
紫々乃の前には、ステッキを構えた紅葉が立っていた。
その体は傷だらけだった。
「ごめん、紫々乃。遅くなってしまって」
「ど、どうして……、私、紅葉のこと裏切ったのに……!」
紫々乃が声を震わせて訊いた。
すると、紅葉が赤い髪を揺らして振り向いた。
「当たり前でしょ? だって私たち友達じゃない!」
紅葉は傷だらけの顔に花のように明るい笑顔を浮かべて言った。
紫々乃の瞳に涙が浮かんだ。
「く、紅葉……! ご、ごめん、ごめんね……!」
「もうごめんはなし! いいの! それより、インドール伯爵を倒すのが先だよ」
「う、うん!」
紫々乃は涙を拭って、紅葉の横に立った。
そして二人は手を重ねてインドール伯爵に向けて突き出した。
二人の深呼吸が重なる。
「……花の精よ、我ら戦士に力を与え給え。フラキュア・ラブエナジー!」
呪文を唱えた瞬間、二人の重なった手から七色の光が溢れ空に向かってそれらはひとつになった。
そしてインドール伯爵に向かってその光の束は放たれ、彼の体を貫いた。
インドール伯爵の苦悶の悲鳴が響いた。
彼が消えたと同時に、街は元の姿を取り戻し始めた……--。
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