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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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「せ、聖夜さん……!」
「……お嬢ちゃん、紅葉ちゃんが好きなの?」

聖夜さんの口から出た声は、予想に反して優しい声だった。
女の子はいきなり知らない、しかもイケメンな男の人に話し掛けられ、驚きで固まっていた。
横にいるお母さんも同様に目を見開いて固まっていた。
聖夜さんはその場にしゃがんで女の子と目線を合わせるとにっこりと微笑んだ。

「よかったら、お兄さんのカードもらってくれないかな? 僕はいらないから」

そう言って、ポケットからカードを取り出した。

「い、いいの……?」

女の子は戸惑いながらカードと聖夜さんの顔を交互に見た。

「もちろん。そのかわり、映画はニコニコ笑顔で観ようね。僕もフラキュア大好きだから一緒に笑って観てくれると嬉しいな。約束、できるかな?」

聖夜さんが王子様スマイルを浮かべて首を横に傾けると、女の子は頬を赤らめてコクコクと頷いた。

「ふふ、いい子だね、それじゃあこれ大事にしてね」

聖夜さんは女の子の頭を撫でてからカードを渡した。

「あ、ありがとうございます……っ!」
「おにいちゃん、ありがとう!」

安心して涙目になっているお母さんと嬉しそうにカードを握りしめる女の子に、聖夜さんは手を振ってから席に戻ってきた。
椅子に腰を下ろした時、既に王子様スマイルは消えていていた。
僕は隣に座る聖夜さんを誇りたい気持ちでいっぱいだった。

「聖夜さん、すごいですね!」
「は? 何が?」

とぼけているというより、いいことをした場面を見られたのが恥ずかしいのか、聖夜さんはぶっきらぼうに答えた。

「女の子を泣き止ませたことですよ。女の子にあげたカード、さっき僕があげたカードですか?」
「んなわけねぇだろ。前に来た時にもらってダブったいらねぇカードだよ」
「でも泣いてる女の子を笑顔にさせるなんてすごいですね。さすがホストです!」
「……うるせぇ。恥ずかしいこと言うな」

ふい、と顔を背けたけれど、彼の尻こそばゆそうな落ち着かなさが全身から伝わってきて僕は微笑ましい気持ちになった。
しばらくすると、上演のブザーが鳴って「ほら、ちゃんと映画観ろ」と片手で顔を前に向かせられてしまった。
本当はもう少し照れた聖夜さんを見ていたかったけど、真面目にフラキュアを観ないと後から怒られそうなので映画を観ることに専念した。
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