128 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
19
しおりを挟む****
聖夜さんの説明は、手短でありながら要点を得ていたのでとても分かりやすかった。
分からない箇所について質問するのは最初は少し勇気が要ったけれど、思いの外、質問されると嬉しそうだったので安心して訊くことが出来た。
それに説明をする聖夜さんはとても楽しそうで、話を聞いていると僕まで楽しくなってきて、上映時間が迫るほどに胸が高鳴った。
上映まであと五分となり、だいぶ席も埋まってきた。
大人もいるとはいっても子供の方がやはり多く、可愛らしいざわめきが満ちていた。
しかし、突然、大きな泣き声が場内に響き渡った。
泣いていたのは三列前に座る三歳くらいの女の子だった。
「いやだー! くれはちゃんがいい!」
「こら! わがまま言わないの! 他の人の迷惑になるでしょう」
隣に座るお母さんが慌ててなだめるけれど、女の子は「くれはちゃんがいい!」の一点張りで泣き止む気配がない。
恐らく入場の時にもらったカードが紅葉ちゃんじゃなかったのだろう。
「後で紅葉ちゃんの買ってあげるから」
「いやだー!」
「もう! うるさい! こんなことで泣かないの!」
「いやだー!」
上映時間も差し迫っていてお母さんの口調にも焦りが滲んで、強いものになっている。
それに対抗するように女の子の泣き声も大きくなる。
周囲にはうるさそうに顔を露骨に顰める人もいた。
自分のカードと交換してあげれたらいいのだけれど、残念ながら聖夜さんにあげてしまったのでそれはできない。
まさか返してとも言えないし……。
ちらりと聖夜さんを見ると、突然、聖夜さんが立ち上がった。
そして階段を降りて女の子のいる席に向かっていった。
ま、まさか、クレームを言いに行くつもりじゃ……!
あり得ないことではなかった。
フラキュアが大好きな聖夜さんにとって子供の泣き声は映画鑑賞の邪魔以外の何ものでもないだろう。
でも、相手は子供だ。
泣くのは仕方がないし、泣き止まないことだってよくあることだ。
誰もがそういう時期を経て大人になったのだ。
だから子供が泣くことに文句を言う資格なんてこの世にきっと誰もいない。
それに文句なんて言ったら必死に子育てをしているお母さんを傷つけてしまうことになりかねない。
そんなことをしてまで観る映画はどんな傑作も絶対に面白くない。
僕は急いで立ち上がり、聖夜さんのもとに向かおうとした。
けれど、僕が立ち上がった時には既に聖夜さんは女の子の横まで辿り着いていた。
20
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる