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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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聖夜さんとの約束の日。
セントラルパークという大型ショッピングモールの最上階にある映画館の入り口前に僕が着いた時には既に聖夜さんは来ていた。
僕は思わず足を止めてしまった。
聖夜さんは白いズボンをすらりと長い脚ではきこなしており、上も淡いグレーのニットと黒のジャケットで全体的に爽やかでおしゃれに見える。
柱によりかかって携帯をいじっているだけなのに華があり、すれ違う人たちがチラチラと彼を見ていた。
それに比べ、自分の服装はベージュのズボンに紺と白のボーダーという地味なもので、急に彼の横に並ぶのが恥ずかしくなってきた。
家に帰って着替えたい気持ちになったけれど、考えてみたら帰ってもおしゃれな服など僕のタンスには一枚もないことに気づいた。
ぐずぐずしていると、聖夜さんが僕に気づき、おしゃれなモデル立ちから威圧感ある仁王立ちに移行したので僕は慌てて彼の元へ走った。
「遅え」
「す、すみませんっ」
五分前には着いたのだけれど、待たせてしまったことには変わりない。
僕はぜぇぜぇと息を切らせながら頭を下げた。
「謝罪はいい。行くぞ。チケットはもう買ってある」
「あ、ありがとうございますっ。あ、お金……」
鞄から財布を取り出そうとすると、聖夜さんはそれを制した。
「金はいい。それより早く席に着いて、フラキュアについてみっちり教えてやらねぇと。アンタ、今回の映画のサイト、ちゃんと見たか?」
「はい、昨日ちゃんと見てきました!」
聖夜さんから映画を観る前にちゃんと予習しておくよう言われたので昨夜慌ててネットで調べた。
あらすじとしては、主人公は普通の女子中学生の清水紅葉(しみずくれは)ちゃんという赤髪の女の子で、友達の花崎紫々乃(はなさきししの)ちゃんという紫色の髪の子と一緒にフラワー戦士フラワーキュア-ズに変身して悪の組織『ハーブサイド』と戦うというものだった。
子供向けなので、話も分かりやすく、登場人物も髪の色と名前が同じで難なく覚えることができた。
昨日サイトで得た情報を簡単に話すと、聖夜さんは満足げに頷いた。
「よし。だが、サイトの情報なんかは基本中の基本しかのってないからな。これからアンタにフラキュアを百倍楽しむための情報を叩き込むから一字一句逃さず聴けよ!」
「は、はい! よろしくお願いします」
「移動時間がもったいねぇ。急ぐぞ!」
そう言って、聖夜さんは僕の腕を掴んで足早にゲートに向かった。
聖夜さんと僕の脚の長さには残酷なほど差があり、彼にとって早歩きでも僕にとってはほぼ小走りで、さっき走って来た僕には小走りでも少しきついものがあった。
少しだけ歩調を緩めてもらおうと思ったけれど、まるで子供みたいにわくわくとした聖夜さんの横顔を見ると、なんだか躊躇われ結局そのまま彼のスピードに合わせることにした。
それは遠慮や諦めではなく、この嬉しそうな表情を崩したくないという想いからだった。
きっと子供に手を引かれる世のお父さんやお母さんもこんな気持ちなのかもしれない。
そう思うと、少し胸がくすぐったい気持ちになった。
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