35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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閉店後のミーティングも終わり、帰りの支度をするホストの人たちで更衣室はざわついていた。
そんな中、着替えを終えてロッカーを閉める聖夜さんの姿を見つけ、僕は彼の元へ向かった。

「聖夜さん、お疲れ様です!」

後ろから声をかけると、聖夜さんはゆっくりとこちらを振り向いた。
その表情に僕は少し驚いた。
さっき愛良さんに見せていた王子様スマイルの名残など微塵もない冷たい無表情だったからだ。

「……お疲れ」

聖夜さんはぼそっとそう答えると、そっぽ向いてしまった。

「あ、あの、今日はヘルプに入らせてもらってありがとうございました。愛良さん、すごく聖夜さんのこと王子様みたいって褒めてましたよ」
「……ふぅん、あっそ」

素っ気ない返事の後には、沈黙だけしかなかった。
右京君以外に仲のいいホストの人がいないので、もっと他の人とも親睦を深めたいと思って話し掛けたのだけれど、親睦なんてほど遠い状態だった。
接客中の聖夜さんしか知らない僕は、自分にもあんな風に優しく笑顔で接してくれるんじゃないかと少し期待しただけに落ち込む。

「……あの、用があるから帰りたいんだけど」
「あ、は、はい! すみませんっ、帰る前につかまえてしまって……」
「……べつに。それじゃあ」

そう言うと、頭を下げる僕の横をスッと通って更衣室を出て行った。

「うわぁ、マジで今のないわ」

更衣室のドアが閉まるのと同時くらいに、少し離れたところで数人で固まって話していた竜鬼(りゅうき)さんが顔を顰めて言った。

「コウさん、あんまり気にしない方がいいですよ、アイツ誰にでもあんな感じなんで」

僕をフォローするように竜鬼さんは言ったけれど、その言葉は僕への気遣いというより、聖夜さんへの悪意の方が色濃かった。

「王子様だかなんだか知らねぇけど、マジ、アイツの接客寒いわ~」
「分かる分かる。客も痛客ばっかりだし」
「本人が痛いから、痛い奴が集まるんだろ?」
「それな!」

アハハハ! といやな笑いが巻き上がる。
数人で集まって陰口で盛り上がるその空気はあまり好きじゃなかった。
早くこの場から逃げたくてヘルプの時に発揮する影の薄さで静かに立ち去ろうとすると、

「コウさんもそう思うっしょ?」
「え……」

竜鬼さんがすかさず話を振ってきたので、僕は戸惑った。
正直、僕は聖夜さんにそんな嫌な印象は抱いていないし、接客についても女性に夢を抱かせる素敵なものだと思っているので竜鬼さんたちの言うことには共感しかねる。
けど、ここで僕が本音を言えば場が白けるのは明白だ。
どう答えるべきか迷っていると、

「どんな方法でもいいから俺も人気ホストになりてー!」

突然、着替え中の右京君が叫んだ。
当然、みんなの意識は右京君に向いた。
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