121 / 228
第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
12
しおりを挟む****
閉店後のミーティングも終わり、帰りの支度をするホストの人たちで更衣室はざわついていた。
そんな中、着替えを終えてロッカーを閉める聖夜さんの姿を見つけ、僕は彼の元へ向かった。
「聖夜さん、お疲れ様です!」
後ろから声をかけると、聖夜さんはゆっくりとこちらを振り向いた。
その表情に僕は少し驚いた。
さっき愛良さんに見せていた王子様スマイルの名残など微塵もない冷たい無表情だったからだ。
「……お疲れ」
聖夜さんはぼそっとそう答えると、そっぽ向いてしまった。
「あ、あの、今日はヘルプに入らせてもらってありがとうございました。愛良さん、すごく聖夜さんのこと王子様みたいって褒めてましたよ」
「……ふぅん、あっそ」
素っ気ない返事の後には、沈黙だけしかなかった。
右京君以外に仲のいいホストの人がいないので、もっと他の人とも親睦を深めたいと思って話し掛けたのだけれど、親睦なんてほど遠い状態だった。
接客中の聖夜さんしか知らない僕は、自分にもあんな風に優しく笑顔で接してくれるんじゃないかと少し期待しただけに落ち込む。
「……あの、用があるから帰りたいんだけど」
「あ、は、はい! すみませんっ、帰る前につかまえてしまって……」
「……べつに。それじゃあ」
そう言うと、頭を下げる僕の横をスッと通って更衣室を出て行った。
「うわぁ、マジで今のないわ」
更衣室のドアが閉まるのと同時くらいに、少し離れたところで数人で固まって話していた竜鬼(りゅうき)さんが顔を顰めて言った。
「コウさん、あんまり気にしない方がいいですよ、アイツ誰にでもあんな感じなんで」
僕をフォローするように竜鬼さんは言ったけれど、その言葉は僕への気遣いというより、聖夜さんへの悪意の方が色濃かった。
「王子様だかなんだか知らねぇけど、マジ、アイツの接客寒いわ~」
「分かる分かる。客も痛客ばっかりだし」
「本人が痛いから、痛い奴が集まるんだろ?」
「それな!」
アハハハ! といやな笑いが巻き上がる。
数人で集まって陰口で盛り上がるその空気はあまり好きじゃなかった。
早くこの場から逃げたくてヘルプの時に発揮する影の薄さで静かに立ち去ろうとすると、
「コウさんもそう思うっしょ?」
「え……」
竜鬼さんがすかさず話を振ってきたので、僕は戸惑った。
正直、僕は聖夜さんにそんな嫌な印象は抱いていないし、接客についても女性に夢を抱かせる素敵なものだと思っているので竜鬼さんたちの言うことには共感しかねる。
けど、ここで僕が本音を言えば場が白けるのは明白だ。
どう答えるべきか迷っていると、
「どんな方法でもいいから俺も人気ホストになりてー!」
突然、着替え中の右京君が叫んだ。
当然、みんなの意識は右京君に向いた。
20
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる