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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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休みの次の日は、現実に心が追いついなくてまだ少し夢見心地だ。
気合いを入れるために僕は更衣室の前で頬をパンと叩いてドアを開けた。
「お疲れ様です、失礼します」
つい挨拶してしまうけれど、大概僕が一番に来るので挨拶が返ってくることはまずない。
ロッカーに荷物を仕舞ってから、更衣室内を簡単に掃除を始めた。
「……あれ?」
ほうきとちり取りで床を掃除していると、床にあるものが転がっていた。
鞄や服から転げ落ちるのか、よく更衣室には落とし物がある。
名刺やたばこ、ライター、時にはコンドームまで落ちていることがある。
最初、コンドームを拾った時は、自分のものでもないのに顔を真っ赤にしてしまった。
そこにちょうど桜季さんが現れて「青りんごったら職場に何持って来てるのぉ? 恥ずかしい~。まぁ、せっかくだし使おうかぁ」と言って押し倒されたのも懐かしい思い出だ。
でも、今回の落とし物は今まで職場では見たことのない類いのものだった。
「……キーホルダー?」
しゃがんで床から拾い上げる。
それは親指くらいのサイズの人形がついたキーホルダーだった。
赤髪の髪をポニーテールにした少女の人形。
どこかで見たことあるような……。
「あ!」
思い出した。
昨日、ももちゃんが観ると言っていた映画のポスターにのっていた女の子だ。
えっと、確か名前は……。
「あ~、フラキュアじゃぁん」
すぐ後ろから声がしてびくりと肩が飛び跳ねた。
振り向くと、桜季さんが腰を曲げて僕の手を覗き込んでいた。
「び、びっくりした……!」
「え~? そんなにぃ?」
「だ、だって全然気配がなかったので……」
「あはは~、青りんごがまた変な拾いものしてるんじゃないかと思ってこっそり入ってきたの~」
「心臓に悪いですよ……」
できればもう若くないのでなるべく心臓に負担を掛けたくない。
「でも意外ですね。桜季さんが、えっと……フラキュア? のこと知ってるなんて」
「知ってるよ~。姪っ子が大好きだからぁ。いつもおれがインドール伯爵の役してあげてるのぉ」
「へぇ、そうなんですか。ふふ、楽しそうですね」
桜季さんと子供という組み合わせが最初ピンとこなかったけれど、桜季さんなら本気で遊びに付き合ってくれそうだから子供も大喜びだろう。
「青りんごもフラキュア知ってるのぉ?」
「あ、はい。昨日、昔の友人に会ってその娘さんに教えてもらいました」
「フラキュア面白いよぉ~。あ、この赤い髪の子、青りんごに似てるかもぉ」
「え! ど、どこがですか!」
人形に視線を落とす。
どこも似ているところが見当たらない。
そもそも性別や年齢も違う。
ももちゃんのようなフラキュア好きな女の子がきいたら怒ってしまうかもしれない。
「ん~とねぇ、ドジっ子だけど一生懸命で前向きなところとかぁ。あ、このまえこの子が大きな蔦に巻き付かれて苦しそうな表情がエロく感じたのは青りんごに似てるからかぁ、納得~」
「え? フラキュアって子供向けのアニメですよね?」
子供向けのアニメでそんなシーンがあるのだろうか……?
首を傾げていると、
「あ、それで本題なんだけど、実はおれも拾いものっていうかもらいもの持って来たんだぁ」
そう言って桜季さんはズボンのポケットから、ふりかけくらいのサイズの袋を取り出して僕に差し出した。
袋には女子高生に人気の可愛いクマの絵がのっている。
「あ、これなら僕もちゃんと知ってますよ! ゆたクマですよね! ふりかけですか?」
小さい子供にも人気があるから、姪っ子ちゃんにもらったのかもしれない。
「ふふふ~、開けてからのお楽しみぃ~」
「へぇ、なんだろう」
ビリリと袋を開けて出てきたものに、僕は固まった。
中に入っていたのは、ピンク色のコンドームだった。
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