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第5章 35歳にして、愛について知る
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「花束は七橋君と、職場の人たちから。あと桐箱はこの間うちに来た蓮君からだよ」
蓮の名前にピクリと反応したのを晴仁は見逃さなかった。
最初、その反応は事件のことを思い出してのことだと思ったがそれは違った。
幸助の表情は怯えとは無縁のもので、桐箱に向ける視線には愛おしささえ溢れていた。
「ふふふ」
「……どうしたの?」
ざわつく胸の不快さに耐えながら訊いた。
「いや、実はこの間、お見舞いにメロン持って来てくれるって言ってくれたんだ。だから本当に持って来てくれたのが嬉しくて」
言葉通り、いやそれ以上に嬉しそうに笑う幸助に、胸のざわめきはより輪郭を濃くして全身に広がった。
「……そう、よかったね」
胸中から溢れる黒い感情を何とか抑えながら、晴仁は微笑んだ。
「うん。本当によかった。僕、蓮君に嫌われているから、今回の一件で少し仲良くなれたらいいな」
「こーすけなら大丈夫だよ」
「いやぁ、でも僕結構嫌われてるからなぁ……」
「大丈夫、こーすけは人気者だから」
本当に人気者だ。
忌々しいほどに。
見舞い品を睨むようにして見る。
できることなら全て捨ててしまいたい。
そして自分が与えたものだけで彼を囲みたい。
埋もれて身動きができないほどに。
「そんなことないよ。それなら晴仁の方がずっと人気者だよ。女の子にはもちろん、性別年齢関係なくみんな晴仁に好感を持つからね。すごいよね。もうこれは才能だよ」
「あはは、そんなことないよ」
もしそれが才能だとすれば、それは狡猾なペテン師の才能だ。
幸助の人を引き寄せるものとは全くの別物だ。
「花が萎れると悪いから花瓶に挿しておくね」
「ありがとう。ふふふ、花束もらうなんて初めての経験だよ」
小さな野花が花弁を広げるように幸助の口元が綻ぶ。
晴仁は立ち上がり、花束を抱えてキッチンへ向かった。
キッチンは簡易のものだが、ガスコンロや洗い場もあり簡単な料理ならできるくらいの設備はあった。
流しで包装紙を外し、花束の茎を軽く水で荒い流す。
そして水を張ったボウルの中で茎の先端を切った。
花束の見舞いはやはり多いのだろう。
花切鋏や花瓶などもキッチンには準備されていた。
花瓶に花を挿し終えると、晴仁はテツがくれたものと、桜季たちがくれたものそれぞれから花を一輪引き抜いた。
そして、ガスコンロの火をつけるとその上で引き抜いた花を炙った。
花弁が身を捩らせながら、火に包まれていく。
火に弄ばれるように捻れていく花弁から、苦悶の断末魔が聞こえてきそうだった。
花の瑞々しさや彩りが火に吸い尽くされたところで、晴仁はフッと火を吹き消した。
そして、ぐちゃぐちゃになった包装紙と一緒にゴミ箱に捨てた。
少しだけ、ほんの少しだけだが気持ちがスッとした。
本当は桐箱のメロンも燃やしてしまいたいところだが、さすがにそれは難しい。
花はまだいい。
飾るだけで、せいぜい幸助の視線と手に触れるくらいだ。
しかし、メロンは幸助の体の中に入ってしまう。
幸助の嬉しそうな笑みを思い出すと、それは許しがたいことのように思えた。
幸いにも、幸助はまだ食事ができない。
明日にでも自分がメロンを持って来て、それを代わりに食べさせよう。
そうすればあのメロンを処分できる。
我ながら名案だと、歪な笑みが零れた。
蓮の名前にピクリと反応したのを晴仁は見逃さなかった。
最初、その反応は事件のことを思い出してのことだと思ったがそれは違った。
幸助の表情は怯えとは無縁のもので、桐箱に向ける視線には愛おしささえ溢れていた。
「ふふふ」
「……どうしたの?」
ざわつく胸の不快さに耐えながら訊いた。
「いや、実はこの間、お見舞いにメロン持って来てくれるって言ってくれたんだ。だから本当に持って来てくれたのが嬉しくて」
言葉通り、いやそれ以上に嬉しそうに笑う幸助に、胸のざわめきはより輪郭を濃くして全身に広がった。
「……そう、よかったね」
胸中から溢れる黒い感情を何とか抑えながら、晴仁は微笑んだ。
「うん。本当によかった。僕、蓮君に嫌われているから、今回の一件で少し仲良くなれたらいいな」
「こーすけなら大丈夫だよ」
「いやぁ、でも僕結構嫌われてるからなぁ……」
「大丈夫、こーすけは人気者だから」
本当に人気者だ。
忌々しいほどに。
見舞い品を睨むようにして見る。
できることなら全て捨ててしまいたい。
そして自分が与えたものだけで彼を囲みたい。
埋もれて身動きができないほどに。
「そんなことないよ。それなら晴仁の方がずっと人気者だよ。女の子にはもちろん、性別年齢関係なくみんな晴仁に好感を持つからね。すごいよね。もうこれは才能だよ」
「あはは、そんなことないよ」
もしそれが才能だとすれば、それは狡猾なペテン師の才能だ。
幸助の人を引き寄せるものとは全くの別物だ。
「花が萎れると悪いから花瓶に挿しておくね」
「ありがとう。ふふふ、花束もらうなんて初めての経験だよ」
小さな野花が花弁を広げるように幸助の口元が綻ぶ。
晴仁は立ち上がり、花束を抱えてキッチンへ向かった。
キッチンは簡易のものだが、ガスコンロや洗い場もあり簡単な料理ならできるくらいの設備はあった。
流しで包装紙を外し、花束の茎を軽く水で荒い流す。
そして水を張ったボウルの中で茎の先端を切った。
花束の見舞いはやはり多いのだろう。
花切鋏や花瓶などもキッチンには準備されていた。
花瓶に花を挿し終えると、晴仁はテツがくれたものと、桜季たちがくれたものそれぞれから花を一輪引き抜いた。
そして、ガスコンロの火をつけるとその上で引き抜いた花を炙った。
花弁が身を捩らせながら、火に包まれていく。
火に弄ばれるように捻れていく花弁から、苦悶の断末魔が聞こえてきそうだった。
花の瑞々しさや彩りが火に吸い尽くされたところで、晴仁はフッと火を吹き消した。
そして、ぐちゃぐちゃになった包装紙と一緒にゴミ箱に捨てた。
少しだけ、ほんの少しだけだが気持ちがスッとした。
本当は桐箱のメロンも燃やしてしまいたいところだが、さすがにそれは難しい。
花はまだいい。
飾るだけで、せいぜい幸助の視線と手に触れるくらいだ。
しかし、メロンは幸助の体の中に入ってしまう。
幸助の嬉しそうな笑みを思い出すと、それは許しがたいことのように思えた。
幸いにも、幸助はまだ食事ができない。
明日にでも自分がメロンを持って来て、それを代わりに食べさせよう。
そうすればあのメロンを処分できる。
我ながら名案だと、歪な笑みが零れた。
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