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第5章 35歳にして、愛について知る

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「ところで、君」

晴仁は桜季の目を見据えた。

「この間はりんご、ありがとう。とてもおいしかったよ。……特に青りんごのウサギがね」

晴仁の言葉に少し目を丸くした桜季だったが、すぐにニヤリと目元を緩ませた。

「いえいえ~、お気に召して頂いたようでよかったでぇす」
「なかなか趣向を凝らしていて面白かったよ」
「ふふ~、でしょう~」
「でも、これは危ないと思うよ」

晴仁はそう言うと財布から、ピアスを取り出し桜季に差し出した。

「わぁ、これずっと持ち歩いていたんですかぁ?」

大袈裟に驚く桜季だが、その目は嫌な笑いを湛えていた。
それが晴仁には心底不愉快だった。

「ああ。……どうしても直接渡したくてね。いつどこで会っても渡せるように持っていたんだ」
「ふぅ~ん……ふふ、ふふふ、あはははっ」

唐突に笑い始めたので、晴仁は内心顔を顰めた。
右京は、事情は知らないが二人の間の何とも言えない不穏な空気は察知しているようで、困惑した様子でおろおろと両者を交互に見遣っていた。
それは不愉快この上ないものだったが、ここで感情を露わにしてはこの男の思う壺のような気がして、なんとか口元には笑みを保たせた。

「……どうしたのかな?」
「あははっ。いやぁ、別にたいしたことじゃないですよぉ。ただ春雨さんはきっと誰かに何かを奪われるということとは無縁のいわゆる勝ち組さんなんだろうなぁって思っただけ~」

癪に障る言い方だ。
やはりこの男はいけ好かない。
あらためて桜季に対する嫌悪感を認識していると、

「……でも一つ忠告~」

そう言って桜季は晴仁の耳元に近づいた。
そして、囁き声より暗く低い声で言った。

「いつまでも自分のものと思うなよ……勝ち組さん」

耳元から離れると、桜季はにっこりと笑った。

「まぁ、そういうわけなんでぇ、これからもどうぞよろしくでぇす~」

そう言って晴仁の手を勝手に取りその手をブンブンと激しく揺らした。
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