103 / 228
第5章 35歳にして、愛について知る
45
しおりを挟む
人を利用するのは簡単だ。
ただ人の心の隙間から入り込んで、その心を乗っ取ればいいだけだ。
心を乗っ取るなんていう言い方をすると、すごく難しいような感じがするが、それほどでもない。
誰もが心の底にある、認められたいだとか、褒められたいだとか、愛されたいだとか、そんなありふれた欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
あの看護師も、厳格そうで一見手強そうに見えるがそうでもない。
むしろああいう人間の方が、そういった欲求が強いのでひとたび懐に入り込めば、簡単に利用できる。
「あの、すみません」
呼びかけられ振り返ると、そこには花束を持った背の低い若い男と、髪型も髪の色も、ピアスの数も、何もかも普通とは正反対にいるような男が立っていた。
「そこの部屋って青葉幸助さんの部屋ですよね?」
「そうだけど、君たちは?」
にこやかに、けれど牽制も込めて二人を見遣る。
「俺たち青葉さんの同じ職場の者です。俺は右京って言います」
そう言って背の低い方の男がぺこっと頭を下げた。
派手な外見だが、中身はしっかりしているようだ。
「そしてこっちが……」
「篝桜季でぇす~。よろしく~」
頭の緩そうな男が手をひらひらと振った。
晴仁はその名前に目を眇めた。
右京は呆れ果てた顔でため息を吐くと、晴仁に向き直った。
「連れがこんなんですみません。お見舞いに来させてもらったんですけど、えっとあなたは……ご親戚、ですか?」
「ああ、紹介が遅くなってすまないね。僕は吉井晴仁、幸助の同居人だ」
「ど、同居!?」
目を丸くする右京に晴仁は苦笑した。
「ははは、大の男が同居っていうと驚くよね。まぁ節約をかねて一緒に暮らしてるんだ」
「あ~、今らっきょうえっちなこと考えたでしょぉ。いや~ん、不潔~」
「ち、違う! そんなわけないだろ!」
にやにやと笑う桜季に目を吊り上げて右京が怒鳴った。
「いやいや~、意外とそんなことあるかもしれないよぉ」
そう言うと、桜季はちらりと意味深な視線をこちらに向けた。
「はじめましてぇ。青りんごから噂はかねがねきいてまぁす。……春雨、さん?」
その呼び名を聞いた瞬間、屈辱にも似た怒りが全身を駆け巡った。
こんな激しい感情を覚えたのは、重なり合うウサギりんごを見たあの時以来だ。
晴仁は何とか湧きあがる激しい感情を抑えながら笑みを浮かべた。
「僕も君の話はよく聞いてるよ」
「えぇ~、マジですかぁ? やったぁ! うふふ~、青りんごったら家に帰ってまでおれのことで頭いっぱいなんだねぇ」
「桜季さんがこき使うからただ愚痴ってるだけじゃないんですか……」
「失礼だなぁ。おれは青りんご可愛がってるよぉ」
心外とばかりに頬を膨らませる桜季に、右京は顔を顰め白けきった視線を向けた。
「あははは、そんな悪い話は聞いてないよ。職場の人は優しいっていつも話しているよ」
忌々しいことに、だ。
ホストという職業が幸助に合っていないことは火を見るより明らかだが、意外にも人間関係が良好なためまだ続けることが出来ている。
--ああ、本当に忌々しい。
心の内で大きく舌打ちする。
ただ人の心の隙間から入り込んで、その心を乗っ取ればいいだけだ。
心を乗っ取るなんていう言い方をすると、すごく難しいような感じがするが、それほどでもない。
誰もが心の底にある、認められたいだとか、褒められたいだとか、愛されたいだとか、そんなありふれた欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
あの看護師も、厳格そうで一見手強そうに見えるがそうでもない。
むしろああいう人間の方が、そういった欲求が強いのでひとたび懐に入り込めば、簡単に利用できる。
「あの、すみません」
呼びかけられ振り返ると、そこには花束を持った背の低い若い男と、髪型も髪の色も、ピアスの数も、何もかも普通とは正反対にいるような男が立っていた。
「そこの部屋って青葉幸助さんの部屋ですよね?」
「そうだけど、君たちは?」
にこやかに、けれど牽制も込めて二人を見遣る。
「俺たち青葉さんの同じ職場の者です。俺は右京って言います」
そう言って背の低い方の男がぺこっと頭を下げた。
派手な外見だが、中身はしっかりしているようだ。
「そしてこっちが……」
「篝桜季でぇす~。よろしく~」
頭の緩そうな男が手をひらひらと振った。
晴仁はその名前に目を眇めた。
右京は呆れ果てた顔でため息を吐くと、晴仁に向き直った。
「連れがこんなんですみません。お見舞いに来させてもらったんですけど、えっとあなたは……ご親戚、ですか?」
「ああ、紹介が遅くなってすまないね。僕は吉井晴仁、幸助の同居人だ」
「ど、同居!?」
目を丸くする右京に晴仁は苦笑した。
「ははは、大の男が同居っていうと驚くよね。まぁ節約をかねて一緒に暮らしてるんだ」
「あ~、今らっきょうえっちなこと考えたでしょぉ。いや~ん、不潔~」
「ち、違う! そんなわけないだろ!」
にやにやと笑う桜季に目を吊り上げて右京が怒鳴った。
「いやいや~、意外とそんなことあるかもしれないよぉ」
そう言うと、桜季はちらりと意味深な視線をこちらに向けた。
「はじめましてぇ。青りんごから噂はかねがねきいてまぁす。……春雨、さん?」
その呼び名を聞いた瞬間、屈辱にも似た怒りが全身を駆け巡った。
こんな激しい感情を覚えたのは、重なり合うウサギりんごを見たあの時以来だ。
晴仁は何とか湧きあがる激しい感情を抑えながら笑みを浮かべた。
「僕も君の話はよく聞いてるよ」
「えぇ~、マジですかぁ? やったぁ! うふふ~、青りんごったら家に帰ってまでおれのことで頭いっぱいなんだねぇ」
「桜季さんがこき使うからただ愚痴ってるだけじゃないんですか……」
「失礼だなぁ。おれは青りんご可愛がってるよぉ」
心外とばかりに頬を膨らませる桜季に、右京は顔を顰め白けきった視線を向けた。
「あははは、そんな悪い話は聞いてないよ。職場の人は優しいっていつも話しているよ」
忌々しいことに、だ。
ホストという職業が幸助に合っていないことは火を見るより明らかだが、意外にも人間関係が良好なためまだ続けることが出来ている。
--ああ、本当に忌々しい。
心の内で大きく舌打ちする。
10
お気に入りに追加
738
あなたにおすすめの小説

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。



病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる