35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
79 / 228
第5章 35歳にして、愛について知る

21

しおりを挟む
「何が言いたいんだよ、テメェは……」
「え~、はっきり言わないと分からないのぉ。だからぁ……」

気だるげなため息を吐いたと同時に、ガンっ! とドア横のロッカーが歪んだ。
へこんだロッカーの側面には桜季さんの拳が強く握られていた。
拳の隙間からぽたぽたとキウイの果汁が落ちている。

「自分の甘さが招いたことを青りんごのせいにしてんじゃねぇよ。さっさとテメェの失敗はテメェで拭いやがれ」

笑みを消した桜季さんに僕も蓮さんも息をのんだ。
しかしすぐに桜季さんはまたいつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「まぁ、ここで寝るのはぶっちゃけどうでもいいんだけどさぁ、青りんごをいじめるのだけはやめてねぇってこと~。それじゃあ、青りんごは向こうでおれとキウイ食べよぉ」

そう言うと、まだ果汁の滴る右手にキウイを持ちかえて、桜季さんは僕の手を引いた。

「あ、レンコンはこれ食べていいよぉ」

潰れていないキウイを蓮さんに投げて、桜季さんはドアを閉めた。
桜季さんが僕を引いて歩みを進めてしばらくすると、ドアの向こうで何かを殴る鈍い音と舌打ちのような小さくけれど怒りが凝縮された声が響いた。

「あはは怒ってる怒ってる~。さてと、青りんごはおれとおいしいキウイを食べよぉ」

歌い出しそうな声で言いながら桜季さんが厨房へ向かう。
けれど僕は歩みを止めた。
桜季さんも立ち止まって、僕の方を振り返った。

「どうしたのぉ? キウイ嫌い?」
「いえ、キウイは好きです。でも、今は食欲がなくて……」

僕はお腹をおさえて俯いた。
お腹の中はもやもやとした気持ちでいっぱいで、食べ物を受け入れられる余裕などなかった。
僕の心の中を察したのか、桜季さんはスッと僕の手を離した。

「そっかぁ、それなら仕方ないねぇ。今日は早く帰ってぐっすり寝なよぉ」

桜季さんはぐしゃぐしゃとと僕の頭を撫でた。
僕の暗い気持ちを掻き消そうとするような、優しい荒っぽさがそこにはあった。

「……はい、ありがとうございます」

僕は頭を下げてから、パラディゾを後にした。
一度、振り返った時、桜季さんは優しげに微笑んで手を振ってくれていた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

処理中です...