73 / 228
第5章 35歳にして、愛について知る
15
しおりを挟む
誰もがその沈黙の重さに口を開けずにいたが、
「どぉしたのぉ? なんかすごい怒鳴り声が聞こえたけどぉ」
何も知らない桜季さんが事務所に入ってきた。
桜季さんは丸くした目を瞬かせ、床に尻をつく僕、羽交い締めにされた蓮さん、そしてその背後の菱田さんに順々に視線を移らせた。
そして、次にはにっこりと場に似合わない満面の笑みを浮かべてこちらへつかつかと近づいてきた。
そして僕と蓮さんの間で歩みを止めると、何の前触れもなく握った拳を蓮さんへ向けた。
ゴッ……、と重い音が辺りに響く。
蓮さんの後ろで菱田さんが目を白黒させている。
「……っ、何すんだよ!」
蓮さんが噛みつかん勢いで桜季さん胸倉に掴みかかった。
しかし桜季さんは怯むことなく笑ったままだ。
「青りんごの仇、討ち取ったりぃ~」
桜季さんは何食わぬ顔で、緩く拳を降り上げた。
その返事に、蓮さんのこめかみにぴきりと青筋が立つ。
「テメェ……、ふざけてんじゃねぇぞ、マジぶっ殺すぞ!」
殺気を漲らせる蓮さんを無視して、桜季さんは僕の前にしゃがんで手を差し出した。
「青りんご大丈夫ぅ? 厨房でほっぺ冷やしてあげるからおいでぇ」
「あ、いえ、僕は大丈夫なので、蓮さんを……」
「レンコンは大丈夫だよぉ。あんなの唾つけときゃ治る治る~」
「いやいや、唾じゃ治らないでしょう!」
それに僕が殴られたのは当然のことで自業自得だけど、蓮さんには明らかに非がない。
蓮さんの方をちらりと見ると、息を巻いて僕らの方を睨みつけている。
菱田さんが後ろから押さえているからこちらには来ないものの、もし菱田さんがいなければ今にも殴りかかってきそうだ。
「レンコンのことはいいからいいからぁ。向こうに行くよぉ」
そう言うと桜季さんは手首を掴んで僕を起き上がらせて、そのまま僕を厨房に引き連れて行った。
事務所を出る時にちらっと後ろを振り返ると、蓮さんが蔑むように睨みつけていた。
僕は居たたまれなくなり視線を逸らした。
「どぉしたのぉ? なんかすごい怒鳴り声が聞こえたけどぉ」
何も知らない桜季さんが事務所に入ってきた。
桜季さんは丸くした目を瞬かせ、床に尻をつく僕、羽交い締めにされた蓮さん、そしてその背後の菱田さんに順々に視線を移らせた。
そして、次にはにっこりと場に似合わない満面の笑みを浮かべてこちらへつかつかと近づいてきた。
そして僕と蓮さんの間で歩みを止めると、何の前触れもなく握った拳を蓮さんへ向けた。
ゴッ……、と重い音が辺りに響く。
蓮さんの後ろで菱田さんが目を白黒させている。
「……っ、何すんだよ!」
蓮さんが噛みつかん勢いで桜季さん胸倉に掴みかかった。
しかし桜季さんは怯むことなく笑ったままだ。
「青りんごの仇、討ち取ったりぃ~」
桜季さんは何食わぬ顔で、緩く拳を降り上げた。
その返事に、蓮さんのこめかみにぴきりと青筋が立つ。
「テメェ……、ふざけてんじゃねぇぞ、マジぶっ殺すぞ!」
殺気を漲らせる蓮さんを無視して、桜季さんは僕の前にしゃがんで手を差し出した。
「青りんご大丈夫ぅ? 厨房でほっぺ冷やしてあげるからおいでぇ」
「あ、いえ、僕は大丈夫なので、蓮さんを……」
「レンコンは大丈夫だよぉ。あんなの唾つけときゃ治る治る~」
「いやいや、唾じゃ治らないでしょう!」
それに僕が殴られたのは当然のことで自業自得だけど、蓮さんには明らかに非がない。
蓮さんの方をちらりと見ると、息を巻いて僕らの方を睨みつけている。
菱田さんが後ろから押さえているからこちらには来ないものの、もし菱田さんがいなければ今にも殴りかかってきそうだ。
「レンコンのことはいいからいいからぁ。向こうに行くよぉ」
そう言うと桜季さんは手首を掴んで僕を起き上がらせて、そのまま僕を厨房に引き連れて行った。
事務所を出る時にちらっと後ろを振り返ると、蓮さんが蔑むように睨みつけていた。
僕は居たたまれなくなり視線を逸らした。
10
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。


病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。


もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園
蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。
王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。
※今のところは主人公総受予定。


隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる