35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第5章 35歳にして、愛について知る

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誰もがその沈黙の重さに口を開けずにいたが、

「どぉしたのぉ? なんかすごい怒鳴り声が聞こえたけどぉ」

何も知らない桜季さんが事務所に入ってきた。
桜季さんは丸くした目を瞬かせ、床に尻をつく僕、羽交い締めにされた蓮さん、そしてその背後の菱田さんに順々に視線を移らせた。
そして、次にはにっこりと場に似合わない満面の笑みを浮かべてこちらへつかつかと近づいてきた。
そして僕と蓮さんの間で歩みを止めると、何の前触れもなく握った拳を蓮さんへ向けた。
ゴッ……、と重い音が辺りに響く。
蓮さんの後ろで菱田さんが目を白黒させている。

「……っ、何すんだよ!」

蓮さんが噛みつかん勢いで桜季さん胸倉に掴みかかった。
しかし桜季さんは怯むことなく笑ったままだ。

「青りんごの仇、討ち取ったりぃ~」

桜季さんは何食わぬ顔で、緩く拳を降り上げた。
その返事に、蓮さんのこめかみにぴきりと青筋が立つ。

「テメェ……、ふざけてんじゃねぇぞ、マジぶっ殺すぞ!」

殺気を漲らせる蓮さんを無視して、桜季さんは僕の前にしゃがんで手を差し出した。

「青りんご大丈夫ぅ? 厨房でほっぺ冷やしてあげるからおいでぇ」
「あ、いえ、僕は大丈夫なので、蓮さんを……」
「レンコンは大丈夫だよぉ。あんなの唾つけときゃ治る治る~」
「いやいや、唾じゃ治らないでしょう!」

それに僕が殴られたのは当然のことで自業自得だけど、蓮さんには明らかに非がない。
蓮さんの方をちらりと見ると、息を巻いて僕らの方を睨みつけている。
菱田さんが後ろから押さえているからこちらには来ないものの、もし菱田さんがいなければ今にも殴りかかってきそうだ。

「レンコンのことはいいからいいからぁ。向こうに行くよぉ」

そう言うと桜季さんは手首を掴んで僕を起き上がらせて、そのまま僕を厨房に引き連れて行った。
事務所を出る時にちらっと後ろを振り返ると、蓮さんが蔑むように睨みつけていた。
僕は居たたまれなくなり視線を逸らした。
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