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第5章 35歳にして、愛について知る
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彼女に少しでも笑顔が取り戻せればと思って言ったことなのに、反対に泣き出してしまい僕は狼狽した。
彼女は僕のハンカチで目元を拭きながら首を振った。
「いえ、違うんです。ただ特別って言ってもらえて嬉しくて……。ありがとうございます」
やっと麻奈美さんの顔に柔らかな笑みが戻った。
それが嬉しくて思わず僕も笑った。
「麻奈美、待たせてすまなかった」
そこでタイミングよく蓮さんが現れた。
VIPルームのお客様は他のヘルプの人が対応しているのだろう。
麻奈美さんは頬を桃色に染めて首を振った。
「ううん、気にしないで! 今日はコウさんが一緒にお話してくれていたからすぐ時間が経ったの」
「ふぅん、それならいいけど」
蓮さんが彼女の横に座る僕にちらりと視線を遣った。
「何かヘマしてないだろうな」と疑うような鋭い視線に僕は苦笑しながら会釈した。
「蓮さんも来ましたし、何か新しいお酒でも持って来ましょうか? 麻奈美さんどれにしますか」
「ふふ、そうですね。じゃあこれで」
麻奈美さんはメニュー表の赤ワインを指さした。
「畏まりました。それでは少々お待ちください」
僕は席を立って厨房へ向かった。
途中、麻奈美さんの方を振り向くと今まで見せることのなかった甘い表情で蓮さんと話していた。
さっきまで悲しそうな顔をしていた女性からあんな幸せそうな表情を引き出せるなんて、やっぱりプロのホストはすごいなと感心する。
でも今日は僕もほんの少しだけど、彼女から笑顔を引き出すことができた。
もちろん蓮さんには遠く及ばないけれど。
やっぱり相手に喜んでもらえるって嬉しいな。
麻奈美さんの笑顔と「ありがとう」に胸をあたためながら僕は厨房へ急いだ。
彼女は僕のハンカチで目元を拭きながら首を振った。
「いえ、違うんです。ただ特別って言ってもらえて嬉しくて……。ありがとうございます」
やっと麻奈美さんの顔に柔らかな笑みが戻った。
それが嬉しくて思わず僕も笑った。
「麻奈美、待たせてすまなかった」
そこでタイミングよく蓮さんが現れた。
VIPルームのお客様は他のヘルプの人が対応しているのだろう。
麻奈美さんは頬を桃色に染めて首を振った。
「ううん、気にしないで! 今日はコウさんが一緒にお話してくれていたからすぐ時間が経ったの」
「ふぅん、それならいいけど」
蓮さんが彼女の横に座る僕にちらりと視線を遣った。
「何かヘマしてないだろうな」と疑うような鋭い視線に僕は苦笑しながら会釈した。
「蓮さんも来ましたし、何か新しいお酒でも持って来ましょうか? 麻奈美さんどれにしますか」
「ふふ、そうですね。じゃあこれで」
麻奈美さんはメニュー表の赤ワインを指さした。
「畏まりました。それでは少々お待ちください」
僕は席を立って厨房へ向かった。
途中、麻奈美さんの方を振り向くと今まで見せることのなかった甘い表情で蓮さんと話していた。
さっきまで悲しそうな顔をしていた女性からあんな幸せそうな表情を引き出せるなんて、やっぱりプロのホストはすごいなと感心する。
でも今日は僕もほんの少しだけど、彼女から笑顔を引き出すことができた。
もちろん蓮さんには遠く及ばないけれど。
やっぱり相手に喜んでもらえるって嬉しいな。
麻奈美さんの笑顔と「ありがとう」に胸をあたためながら僕は厨房へ急いだ。
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