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第5章 35歳にして、愛について知る

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「な、なんで、僕なんですか! 僕にピアスをあけるのは諦めたんじゃなかったんですか!」

初出勤日に桜季さんにピアスをあけられそうになったが、その後はピアスについて触れてこなかったので、てっきり度の過ぎたジョークか諦めたかだと思っていた。

「え~、諦めてないよぉ。おれって諦めない男だからぁ。それに最近、おれと色違いのお揃いのピアス見つけたからこれはぜったい青りんごにつけてあげなきゃぁって思ってぇ」
「いえいえ結構です!」

僕は力いっぱい首を横に振った。

「遠慮しなくていいよぉ。青りんごとおれの仲じゃなぁい」
「いえいえ遠慮じゃなくて本当に結構なので! お揃いは彼女さんにしてあげてください!」
「え~、おれ今彼女いないよぉ。あ、それで青りんご遠慮していたのぉ? めっちゃかわいい~!」

ぐしゃぐしゃとまるで犬にするように僕の頭を撫でる桜季さん。
僕の渾身の拒否が全く通じていない。

「あ、あの、そういう意味じゃなくて……」
「色違いのピアス見つけた時に真っ先に青りんごの顔が思い浮かんだんだよねぇ。ピアスの色が青だからかなぁ。だからこれは何か運命的な感じがしてね~」

声を弾ませる桜季さんに僕の言葉は届いていないようだ。
うぅ、どうしよう……。

「と、とりあえず、ここを出ましょう! もう少しでミーティングも始まりますし!」

こういう時は逃げるが勝ちだ。
桜季さんの横をするりと通り過ぎようとしたが、その瞬間に強く腕を引っ張られ、そのまま壁に手首を貼りつけるようにして押さえ込まれてしまった。
後ろは冷たい壁。
前はにやにやと笑う桜季さん。
両側には柵のように彼の両腕が立ち塞がる。
……もしかしてこれ逃げられない?
こめかみに嫌な汗が流れる。

「えへへ~、壁ドン~」
「壁丼!?」

なんておいしくなさそうな食べ物だろう……。
いや、そもそも食べ物なのだろうか?
この状況で食べ物の名前を出るのはおかしいから、何か他の意味の言葉なのかもしれない。
壁どんっていう最近流行っているキャラクターとか?
壁どんのことで頭がいっぱいになっていると、不意に耳たぶをぺろりと舐められた。
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