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第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!
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真偽を見定める鋭い視線が、僕の瞳を覗き込む。
嘘なんて簡単に見破ってしまいそうなその視線に内心たじろいだ。
動揺を気取られないよう平常を装いながら、僕は言葉を慎重に選びながら答えた。
「実は、僕がボトルを落として、お客さんを怒らせちゃって……」
頭を掻きながら、苦笑を滲ませて話す。
嘘じゃない。
だから彼の鋭さも欺けると思っていた。
桜季さんは僕の答えにゆっくりと頷いた。
「ふぅん、そうなんだぁ。大変だったねぇ。……でも、それだけじゃないでしょぉ?」
確信を持った視線を寄越されて、どきっとする。
その動揺に答えを得た桜季さんは溜め息を吐いて言った。
「まぁ、言いたくなければ言わなくてもいいけどねぇ。でもそのかわりキスさせてもらうけどぉ」
「……え?」
僕が驚きの声を上げるより早く、桜季さんは鼻先まで顔を近づけて来た。
「え? え? ええ!? な、なんで、キスする流れになるんですか!?」
「んー? だってキスしたら風邪がうつるくらいなんだから、きっとその人の悩み事とかも少しはうつるはずだよぉ」
「な、なんですか、その乱暴な理論は!」
ぐぐっと胸元を両手で押して、迫り来る唇を遠ざけようとするが、若さと体格の差なのか、桜季さんの方が力が強かった。
唇が触れる寸前で、僕は口を開いた。
「っ! い、言われたんです! ホスト向いてないから辞めた方がいいって」
大声を出し過ぎたのか、桜季さんが目を瞬かせた。
そしてさっきまで迫ってきていたのが嘘のように、僕から離れて椅子に座り直した。
「ふぅん、それってレンコンからぁ?」
「あ、はい……。で、でも、本当のことですから。僕もずっと思っていたことでしたし」
告げ口をしているようで申し訳なく思い、蓮さんの言っていることは正しいことを言い加えた。
すると桜季さんは脚を組んだ上に肘を吐いてふぅと溜め息を吐いた。
そして、
「で? それでぇ?」
「え?」
「青りんごはレンコンにそう言われて、ホスト辞めようと思っているのぉ?」
そこで僕は、蓮さんの言葉にあんなにも傷つき動揺しながら、ホストを辞めるかどうかについては全く考えていないことに気付いた。
確かにホストに向いていない、辞めた方がいいという言葉は心を抉った。
けれど、今僕を苦しませているのはそんな直接的で表面的な言葉ではないような気がした。
膝の上でぎゅっと拳を握って僕は口を開いた。
「実は、あの辞めるとか続けるとかそこまでまだ考えられてなくて……」
心の底に淀む闇に手を入れ核心を探るようにしてゆっくり、ゆっくり言葉にしていく。
自分にもこの先どんな言葉が口から出てくるか分からなかった。
「あの、僕、昔から要領悪くて、人より頑張らないと人並みというものができなくて。今までも頑張ってきたつもりだったけど、いつもだめで、結局仕事は辞めさせられたし……」
喉の奥がひしゃげそうなほどの苦い記憶が言葉を詰まらせた。
いつもそうだった。
自分では頑張っているつもりでもまるで空回りで、いい結果に繋がった記憶があまりない。
せめて無難に、人並みにこなさればいいのにそれさえもできない。
「ここでも自分なりにできることは頑張っているつもりだったんです。でもどんなに頑張っても足手まといにしかなっていないみたいで、そのことを蓮さんに言われて何も言い返せない自分が情けなくて、恥ずかしくて……」
圧倒的正論に何も言い返せず立ち尽くす自分を思い出して、言いながら嗚咽が零れた。
それは恥ずかしさや情けなさに拍車を掛けることに他ならなかったけれど、それでも涙は止まらなかった。
惨めな嗚咽ばかりが零れる口に、ふいに、硬く冷たいものが触れた。
それはウサギりんごの口先だった。
嘘なんて簡単に見破ってしまいそうなその視線に内心たじろいだ。
動揺を気取られないよう平常を装いながら、僕は言葉を慎重に選びながら答えた。
「実は、僕がボトルを落として、お客さんを怒らせちゃって……」
頭を掻きながら、苦笑を滲ませて話す。
嘘じゃない。
だから彼の鋭さも欺けると思っていた。
桜季さんは僕の答えにゆっくりと頷いた。
「ふぅん、そうなんだぁ。大変だったねぇ。……でも、それだけじゃないでしょぉ?」
確信を持った視線を寄越されて、どきっとする。
その動揺に答えを得た桜季さんは溜め息を吐いて言った。
「まぁ、言いたくなければ言わなくてもいいけどねぇ。でもそのかわりキスさせてもらうけどぉ」
「……え?」
僕が驚きの声を上げるより早く、桜季さんは鼻先まで顔を近づけて来た。
「え? え? ええ!? な、なんで、キスする流れになるんですか!?」
「んー? だってキスしたら風邪がうつるくらいなんだから、きっとその人の悩み事とかも少しはうつるはずだよぉ」
「な、なんですか、その乱暴な理論は!」
ぐぐっと胸元を両手で押して、迫り来る唇を遠ざけようとするが、若さと体格の差なのか、桜季さんの方が力が強かった。
唇が触れる寸前で、僕は口を開いた。
「っ! い、言われたんです! ホスト向いてないから辞めた方がいいって」
大声を出し過ぎたのか、桜季さんが目を瞬かせた。
そしてさっきまで迫ってきていたのが嘘のように、僕から離れて椅子に座り直した。
「ふぅん、それってレンコンからぁ?」
「あ、はい……。で、でも、本当のことですから。僕もずっと思っていたことでしたし」
告げ口をしているようで申し訳なく思い、蓮さんの言っていることは正しいことを言い加えた。
すると桜季さんは脚を組んだ上に肘を吐いてふぅと溜め息を吐いた。
そして、
「で? それでぇ?」
「え?」
「青りんごはレンコンにそう言われて、ホスト辞めようと思っているのぉ?」
そこで僕は、蓮さんの言葉にあんなにも傷つき動揺しながら、ホストを辞めるかどうかについては全く考えていないことに気付いた。
確かにホストに向いていない、辞めた方がいいという言葉は心を抉った。
けれど、今僕を苦しませているのはそんな直接的で表面的な言葉ではないような気がした。
膝の上でぎゅっと拳を握って僕は口を開いた。
「実は、あの辞めるとか続けるとかそこまでまだ考えられてなくて……」
心の底に淀む闇に手を入れ核心を探るようにしてゆっくり、ゆっくり言葉にしていく。
自分にもこの先どんな言葉が口から出てくるか分からなかった。
「あの、僕、昔から要領悪くて、人より頑張らないと人並みというものができなくて。今までも頑張ってきたつもりだったけど、いつもだめで、結局仕事は辞めさせられたし……」
喉の奥がひしゃげそうなほどの苦い記憶が言葉を詰まらせた。
いつもそうだった。
自分では頑張っているつもりでもまるで空回りで、いい結果に繋がった記憶があまりない。
せめて無難に、人並みにこなさればいいのにそれさえもできない。
「ここでも自分なりにできることは頑張っているつもりだったんです。でもどんなに頑張っても足手まといにしかなっていないみたいで、そのことを蓮さんに言われて何も言い返せない自分が情けなくて、恥ずかしくて……」
圧倒的正論に何も言い返せず立ち尽くす自分を思い出して、言いながら嗚咽が零れた。
それは恥ずかしさや情けなさに拍車を掛けることに他ならなかったけれど、それでも涙は止まらなかった。
惨めな嗚咽ばかりが零れる口に、ふいに、硬く冷たいものが触れた。
それはウサギりんごの口先だった。
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