50 / 228
第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!
27
しおりを挟む
「おじさん、こっち来てお酒つくってよ。お手並み拝見~」
グラスを持ち上げて、愛果さんが手招きする。
お手並み拝見という言葉に体が緊張で固まったが、断るわけにもいかず、ぎこちない動きで愛果さんの隣に移動した。
蓮さんから送られてくる「俺の客の前で下手するなよ」とでもいうような鋭い視線に緊張が更に増す。
深呼吸をして、右京君に教えてもらったお酒づくりのマナーを頭の中でなぞりながらグラスを手にした。
まず、汚いと思われないようグラスの半分より上は絶対に触らない。
次に氷をグラスに入れる。
この時、お客様を不愉快な気持ちにさせないよう音は立てずそっと入れる。
そして、お酒を注ぐ時は、お客様にお酒がはねてしまわないようグラスのお客様側をもう片方の手で覆い隠す。
「お、お待たせしました。どうぞ」
「あははは! 超ぎこちない~、マジウケるんだけど」
僕が差し出したグラスをケラケラと笑いながら受け取ると、愛果さんはそれを一気に飲み干しまた僕に突き出した。
「うまいじゃん! もう一杯お願いね」
愛果さんの笑顔にほっと息を吐く。
けれどそれがいけなかった。
緊張の緩みは、手の先からやってきた。
ボトルを持ってグラスに注ごうとした時、つるりと手を滑らせてしまったのだ。
しまった、と思う暇もなくボトルは床に落下してしまい、悲鳴のような高い音を立てて割れ中の酒を撒き散らした。
その飛沫は愛果さんのロングスカートの裾にまでかかってしまった。
「な、なにすんのよ!」
今までの上機嫌な笑顔から一転して怒りの形相となった愛果さんに、僕は慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「すみませんじゃないわよ! 人がせっかく気持よく飲みに来たのに最悪! このスカート気に入っていたのに! 染みができたらどうしてくれんのよ!」
「あ! それでしたら、酢か重層をつけた布でトントンと叩くととれるらしいです!」
「そんな問題じゃないわよ!」
よかれと思って言った僕の言葉は、火に油を注ぐ結果となってしまい、彼女の怒りの炎は鎮火不可能のレベルに達してしまった。
どうしよう……!
すると、蓮さんの手がおもむろに愛果さんの顎まで伸びた。
そしてクイッと彼女の顔を自分の方へ向かせた。
目を丸くする愛果さんに、蓮さんはにっこりと微笑んで耳元に唇を近づけた。
「じゃあさ、今から俺と服見にいかない? 俺に愛果に似合う服、選ばせてよ。……それでその服を今度は愛果のお気に入りにしてくれない?」
漏れ聞えた溢れんばかりの色気と甘さを含んだ声に、僕は息を呑んだ。
愛果さんの顔から怒りの形相はきれいに消え去り、淡い紅潮がその頬を染めた。
「蓮がそう言うなら……」
さっきまで吊り上げていた目をうっとりと蕩かせて愛果さんがそう答えると、蓮さんは「ありがとう」と言って彼女の額にキスをした。
一層頬を紅潮させて、「ちょっとお手洗いに言ってくるね!」と彼女は席を立った。
グラスを持ち上げて、愛果さんが手招きする。
お手並み拝見という言葉に体が緊張で固まったが、断るわけにもいかず、ぎこちない動きで愛果さんの隣に移動した。
蓮さんから送られてくる「俺の客の前で下手するなよ」とでもいうような鋭い視線に緊張が更に増す。
深呼吸をして、右京君に教えてもらったお酒づくりのマナーを頭の中でなぞりながらグラスを手にした。
まず、汚いと思われないようグラスの半分より上は絶対に触らない。
次に氷をグラスに入れる。
この時、お客様を不愉快な気持ちにさせないよう音は立てずそっと入れる。
そして、お酒を注ぐ時は、お客様にお酒がはねてしまわないようグラスのお客様側をもう片方の手で覆い隠す。
「お、お待たせしました。どうぞ」
「あははは! 超ぎこちない~、マジウケるんだけど」
僕が差し出したグラスをケラケラと笑いながら受け取ると、愛果さんはそれを一気に飲み干しまた僕に突き出した。
「うまいじゃん! もう一杯お願いね」
愛果さんの笑顔にほっと息を吐く。
けれどそれがいけなかった。
緊張の緩みは、手の先からやってきた。
ボトルを持ってグラスに注ごうとした時、つるりと手を滑らせてしまったのだ。
しまった、と思う暇もなくボトルは床に落下してしまい、悲鳴のような高い音を立てて割れ中の酒を撒き散らした。
その飛沫は愛果さんのロングスカートの裾にまでかかってしまった。
「な、なにすんのよ!」
今までの上機嫌な笑顔から一転して怒りの形相となった愛果さんに、僕は慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「すみませんじゃないわよ! 人がせっかく気持よく飲みに来たのに最悪! このスカート気に入っていたのに! 染みができたらどうしてくれんのよ!」
「あ! それでしたら、酢か重層をつけた布でトントンと叩くととれるらしいです!」
「そんな問題じゃないわよ!」
よかれと思って言った僕の言葉は、火に油を注ぐ結果となってしまい、彼女の怒りの炎は鎮火不可能のレベルに達してしまった。
どうしよう……!
すると、蓮さんの手がおもむろに愛果さんの顎まで伸びた。
そしてクイッと彼女の顔を自分の方へ向かせた。
目を丸くする愛果さんに、蓮さんはにっこりと微笑んで耳元に唇を近づけた。
「じゃあさ、今から俺と服見にいかない? 俺に愛果に似合う服、選ばせてよ。……それでその服を今度は愛果のお気に入りにしてくれない?」
漏れ聞えた溢れんばかりの色気と甘さを含んだ声に、僕は息を呑んだ。
愛果さんの顔から怒りの形相はきれいに消え去り、淡い紅潮がその頬を染めた。
「蓮がそう言うなら……」
さっきまで吊り上げていた目をうっとりと蕩かせて愛果さんがそう答えると、蓮さんは「ありがとう」と言って彼女の額にキスをした。
一層頬を紅潮させて、「ちょっとお手洗いに言ってくるね!」と彼女は席を立った。
10
お気に入りに追加
738
あなたにおすすめの小説

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。



Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

平凡くんと【特別】だらけの王道学園
蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。
王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。
※今のところは主人公総受予定。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる