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第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!

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「レンコンじゃぁん! もう同伴から帰って来たんだぁ。今日は早いねぇ」

桜季さんが手を挙げながら青年に近付いていく。
レンコン!?
僕の頭の中には穴のあいたレンコンさんしか思いつかず、青年のあだ名と気付くまでに時間がかかった。

「その呼び方やめろって言ってるだろう! 俺にもっとふさわしい名前にしろ!」
「そんな口のきき方していいのかなぁ。そんなこと言ったらアレあげないんだからねぇ」

噛みつかん勢いで自分のあだ名に反応した青年だったが、桜季さんの言葉に不承不承と言った様子で言葉を飲み込んだ。
二人のやりとりを茫然と見ていると、桜季さんが僕の方を振り返った。

「そう言えば青りんごはまだ会ってないよねぇ。何を隠そう、彼こそ当ホストクラブのナンバーワンホスト蓮なのです~」

手をひらひらとはためかせ彼を紹介する桜季さんの言葉に、僕は目を丸くした。
ナンバーワンホスト!?
まだ二十歳前後にしか見えない彼がそんな地位を築いていることに驚きを隠せなかった。
でも、確かにそう言われればそんなオーラを感じるような……。

「すごいですね、この若さナンバーワンだなんて……」

感心しながら呟くと、青年――蓮さんは、鼻を鳴らした。

「当たり前だろう。俺が一番じゃなかったら誰が一番になれるっていうんだ。俺しかいないだろう」

す、すごい……!
なんて自信だろう。
自分が一番であるということが当然と言い切れるなんて、すごい自信だ。
僕なんて人生で何か一番になったことといえば、小学生の頃に行ったセミの抜け殻収集の数だけだ。
あれから後にも先にも何かで一番になった記憶はない。

「そしてこっちが今日からここで働くことになった青りんごだよぉ」

桜季さんが僕も紹介してくれ、ほっとする。
不審者疑惑もこれで少しは晴れるだろう。

「今日からお世話になります。青葉幸助です。よろしくおね……」
「こんな変態雇ったのか! この店は!」

……全然晴れなかった。
疑惑どころか、彼の中では僕が不審者ということは確定事項らしく、その鋭い瞳は警戒心を露わにしていた。

「え~、青りんごがヘンタイってどういうことぉ?」
「どういうことも何も、こいつ、寝ている俺にキスしてきやがったんだ!」

首をこてんと傾げる桜季さんに、蓮さんが息巻いた。
ど、どうしよう……。
これから新しい職場でがんばろうと思っていた矢先に、変態のレッテルが貼られてしまった……。
先手必勝とでもいううのか、事実と異なっていても先に言われてしまえば、いくら僕が真実を話しても、言い訳をしている風にしか聞こえず誤解は深まるばかりだ。
どう誤解を解くべきか思いあぐねていると、

「え~、青りんごがキスしたの? ずるい!」
「は?」
「え?」

思いもよらない言葉に、蓮さんと僕の口から間抜けな言葉が出た。

「ずるいって何だよ!」
「だってぇ、おれだってまだ青りんごとキスしてないんだよぉ? しかも青りんごからしてくれたなんてずるい!」
「知るか!」
「え、えっと、あの……」

誤解がさらに複雑を極めてた状況に戸惑っていると、桜季さんがくるりと僕に向き直った。

「青りんご、じゃあおれにもキスしてぇ? レンコンにしたんなら、もちろんおれにもしてくれるよねぇ? はい、どうぞぉ」

桜季さんが体を屈め瞳を閉じて僕に顔を近づける。

「えっと、あの」
「あ、舌も入れてねぇ。おれ、舌ピアスつける前の青りんごの舌も堪能したいからぁ」

ひとつの誤解が変な方向に向かってしまい、収束がつかない状態となってしまった。
もう問題のどこから手をつけていいのか分からなくなった上に、目の前に迫るきれいな桜季さんの顔に僕の頭は大混乱だった。

「あ、え、そ、その、えっと……お、お疲れ様でした!」

僕は自分の荷物を持って脱兎のごとくその場から逃げ出した。
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