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第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!

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菱田さんは「ひぃ!」と悲鳴に近い声を上げ震えていた。
確かに、今のテツ君の顔はヤクザも全力疾走で逃げ出しそうなほど凶悪な顔つきだ。
もしかして、せっかく紹介してもらったのに店長に挨拶もなしで厨房に引きこもっていた僕に怒っているのだろうか……。
いや、もしかしてではなく、それしかないだろう。
菱田さんから伝染するように僕も体が震えはじめた。
鬼の形相を携えたままテツ君がこちらに近づいてくる。
僕は口の先まで出かかった悲鳴を飲み込んで頭を深く下げた。

「す、すみません! 店長に挨拶もせ……」
「おい、菱田ぁ! 幸助さんに頭下げさせるとは一体どういう了見だ! ああぁ?」
「ひぃぃ! ご、誤解です、オーナー!」

顔を上げると、テツ君は僕の方など見向きもせず菱田さんの胸倉を掴んでいた。
怒りの矛先が思わぬ方向に向いていたため、僕は目を瞬かせた。
こ、これはもしかして連帯責任ということなのだろうか?
部下のミスは上司のミスといった風潮がこのホストクラブにはあるのかもしれない。
それならなおさら僕が謝らなくては!
自分の失態のせいで他の人が怒られるなんて耐えられない……!
僕は慌ててテツ君たちの間に入って彼に訴えた。

「テツ君、違うんだよ! 僕が菱田さんに挨拶もなしに仕事をしていて迷惑を掛けたんだ。だから菱田さんは全然悪くなくて……」
「テメェ、挨拶しないくらいで青葉さんに謝らせるとか何様のつもりだ! ああぁ!」
「ちょ、く、苦しいです……」

僕の言葉を誤解したテツ君にさらに揺すられ、ガクガクと首を前後に揺らす菱田さんの顔は真っ青だ。
これは強行手段に入るしかあるまい……!
意を決した僕は、菱田さんの胸倉を掴んでいるテツ君の腕にしがみついた。

「え! こ、幸助さん!」

僕がこういった動きに出ると思わなかったのだろう、テツ君は目を白黒させながら僕を見下ろした。
そこに畳み掛けるようにして僕は言い募った。

「テツ君! 菱田さんは全然悪くないんだよ! だからその手をまず下ろして、ね?」
「あ、はい、分かりました……」

ようやく僕の言葉を誤解することなく受け止めてくれたテツ君は、ゆっくりと胸倉を掴んでいた手を放してくれた。
先ほどまでの烈火の如き怒りは嘘のように鎮火したが、残り火があるようで顔がまだ赤い。
余程頭に血を上らせていたようだ。
申し訳ない……。
解放された菱田さんは「よかったぁぁぁ」と今にも泣きそうな表情で胸を撫で下ろしていた。
僕のせいで本当に申し訳ない……。
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