上 下
16 / 228
第3章 35歳にして、感動の再会

7

しおりを挟む
「あ、う、うん。そうしたいのは山々なんだけど、仕事がなかなか見つからなくてね……」

情けない実情を話すと、テツ君は一度僕の手を放し「うーん、そうですよね……」と言いながら椅子の背にもたれて目をつぶった。
顎に手を当て真剣に思案するテツ君に、なぜここまで必死に考えてくれるのか不思議に思っていると、彼が薄く目を開けた。
そして、

「もし、幸助さんがよかったらなんですけど、俺の店で働きませんか?」
「え!」

話の流れが突然で僕は言葉の意味をなかなか飲み込めずにいた。

「テツ君のお店ってどういうこと?」
「いや、実は俺、店を三つくらい経営してるんですよ。それで、よかったらそのどこかで働いてもらえないかなぁと思って」

僕は驚きのあまり口を開けて固まっていた。
しかし、通りで羽振りがいいはずだ、と同時に納得もできた。

「す、すごいね。三十ちょっとでお店を経営するなんて……」
「い、いえ、店って言っても小さな店ですからっ」

驚嘆する僕に、テツ君は謙虚に手を振って否定した。
だが、自分より年下の彼が経営をしているとは、本当にすごいとしか言いようがない。

「店ってどういうお店? 飲食店?」

興味と、もしかしたら雇ってもらえるかもしれないという期待から、気付けば身を乗り出していた。

「あ、はい、まぁ、飲食店っていうか酒が主なんですけどね」
「じゃあ居酒屋さん?」
「あー、まぁ、働く時間帯としては似てますけど、それよりもっと客と距離が近いというか……」
「あ! じゃあバーとか?」
「んー、そうっすね、まぁ近いっちゃ、近いですね」

先ほどから歯切れの悪い返答が続く彼に首を傾げていると、意を決したようにテツ君が大きな息を吐いた。

「正直に言いますね。俺が経営しているのは、ホストクラブです」

ほすとくらぶ、ほすとクラブ、ホストクラブ……――。
あまりに非日常な単語に一瞬、頭の動きが止まったが、またすぐに動き始めた。

「ああ! ホストクラブか! 確かにテツ君かっこいいもんね、人気ありそう!」
「いや、俺は経営の方なんで今はもう引退しているんです」
「そっか、そういえばお店を経営していて、それで俺に仕事を紹介してくれるって言う話だったね……、って、えええ! ホストクラブ!? 僕が!?」

ガタンっと今度は僕が立ちあがって、絶叫に近い声で叫んだ。

「幸助さん声デカイです。目立ってますよ」

苦笑しながらテツ君に指摘され、僕は慌てて腰を下ろした。

「ホ、ホストクラブって、あれだよね。若くてかっこいい男の子たちが女の子を接客する仕事だよね?」

僕の知るホストクラブと、彼の言うホストクラブが同じものなのか一応確認する。

「はい、そうです」
「ど、どう考えても僕が働けそうな職場ではなさそうだけど……。あ! もしかして厨房の仕事?」
「いえ、厨房は専門のスタッフがいるので」
「じゃあ……、清掃スタッフ?」
「いえ、それは業者が入ります」

じゃあ他にホストクラブで何の仕事があるというのだろうか。
自分にできる仕事が思い当たらず首を傾げていると、

「幸助さんにはホストとして接客をしてもらいます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

学園王子と仮の番

月夜の晩に
BL
アルファとベータが仮の番になりたかった話。 ベータに永遠の愛を誓うものの、ある時運命のオメガが現れて・・?

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

処理中です...