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第3章 35歳にして、感動の再会

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「何? どうした?」
「あ、あの、あのですね……」

今まで堂々とした態度から打って変わって、ちらちらと僕の左手に視線を遣りながら、そわそわ落ち着かない様子だ。
続く言葉を促そうとしたところで、ようやく彼の口から明瞭な言葉が発せられた。

「あの、幸助さんは、結婚とかされているんっすか!」

勢いよく出てきた声は予想より大きく、店内に響いた。
彼自身も自分の声の大きさが予想外だったのだろう。
恥ずかしげに「すいません……」と消え入る声で謝ってきた。

「いや、別にいいんだけど。僕は結婚なんてまだまだだよ。彼女すらいない寂しい生活だよ」

苦笑して答えると、テツ君は明らかに安堵した様子で「そうですか」と顔を明るくした。
まさか、僕なんかに先を越されていなくて安心した、ということだろうか。

「あ、俺もまだ結婚してなくって、彼女も今はいないんです! この歳になると結構周りの奴が結婚して家庭を持っていて遊ぶどころの話じゃなくて、それで、もし幸助さんさえよければ、また一緒に映画を観たりとかどうかな、と思って」

しどろもどろに言い終えると、テツ君がちらりとこちらの様子を伺ってきた。
年はひとつしか変わらないし、彼の方が体は大きいのに、まるで子どものようで、僕は頬を綻ばせた。

「もちろん、僕でよければぜひ。また一緒に映画を見に行こう」

すると、不安げな表情が霧散し、テツ君の顔がパァァと輝いた。

「あ、ありがとうございます! アドレス教えてもらっていいですか?」
「うん、僕もテツ君の教えて」

アドレスを交換し終えると、テツ君はそのまますぐに携帯をしまうことなく、口元を綻ばせ、携帯を見詰めていた。
その視線があまりにも愛おしげだったので、待ち受けをペットにしているのかと思い訊いてみたが違った。
視線の意味を図りかね首を傾げていると、

「そういえば、お仕事はいつも何曜日がお休みですか? 俺、予定調整できるんで教えてください。あ、というか、今は何のお仕事されてるんっすか?」

他意のない、話の流れ上、普通の質問だ。
そんな質問でまごついてしまう自分が情けない……。

「今は求職中で、いつもが日曜日みたいなものなんだ」

あはは~、と能天気に笑ってみせたが、テツ君は目を丸くし、それから神妙な顔になって「今、不景気ですもんね」と相槌を打った。
恐らくまずい質問をしてしまったと思っているのだろう。
そういう気持ちにさせるのが申し訳ない。
しばらく気まずい沈黙が続いたが、突然、テツ君が勢いよく立ち上がった。

「えっと、どうしたの? トイレ?」

目を瞬かせて問うが、テツ君には聞こえていないようで、真剣な顔で口を開いた。

「幸助さん、もしよかったら俺と一緒に暮らしませんか!」
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