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第2章 35歳にして、初のるーむしぇあ
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『履歴書なくしてしまった……』
絵文字はないが、逆にその簡素な文面が、画面の向こうの人物がどれほど落ち込んでいるかを容易に想像させた。
しかも、その履歴書を送る会社は、明日が求人の締め切りだ。
今日の午前中に速達で出せば間に合うはずだったのだが……。
晴仁は腕時計を見た。
十二時二十分。
もう諦めるしかない。
続く『一緒に内容考えてくれたのに本当にごめん……』の一文に、晴仁は笑いを零した。
悪いとは思いつつ、自分が一番落ち込んでいるだろうに、こちらを気遣うところが彼らしく思え、ついつい笑いが漏れたのだ。
晴仁は画面から顔を上げ辺りを見回した。
昼の休憩時間ということもあり、印刷機やシュレッダー、紙の束しかないコピー室には誰もいない。
晴仁はほっと息を吐いた。
メールを見てひとりで笑っているところなど、人に見られたら恥ずかしい。
「あれぇ? めずらしい人がいるぅ。どぉしたんですかぁ?」
突如現れた間延びした声の方を向けば、入口のドアから石原美香(いしはら みか)が顔を覗かせていた。
美香は言葉遣いや態度には問題はあるものの、仕事の速さ、正確さはずば抜けており一目置かれている。
「部長がコピー室にいるところ初めてみたかもぉ。コピーなんて仕事、あたしたち下っ端にまかせればいいのにぃ」
言いながら、美香は晴仁に近づいてきた。
香水の匂いが鼻を湿らす。
「いや、私用だからね。そんなことまでお願いできないよ」
「ふぅん、そうなんですかぁ」
納得はしたようだが、立ち去る気配はない。
しばらくの沈黙の後、美香は艶やかな唇をしなわせ言った。
『履歴書なくしてしまった……』
絵文字はないが、逆にその簡素な文面が、画面の向こうの人物がどれほど落ち込んでいるかを容易に想像させた。
しかも、その履歴書を送る会社は、明日が求人の締め切りだ。
今日の午前中に速達で出せば間に合うはずだったのだが……。
晴仁は腕時計を見た。
十二時二十分。
もう諦めるしかない。
続く『一緒に内容考えてくれたのに本当にごめん……』の一文に、晴仁は笑いを零した。
悪いとは思いつつ、自分が一番落ち込んでいるだろうに、こちらを気遣うところが彼らしく思え、ついつい笑いが漏れたのだ。
晴仁は画面から顔を上げ辺りを見回した。
昼の休憩時間ということもあり、印刷機やシュレッダー、紙の束しかないコピー室には誰もいない。
晴仁はほっと息を吐いた。
メールを見てひとりで笑っているところなど、人に見られたら恥ずかしい。
「あれぇ? めずらしい人がいるぅ。どぉしたんですかぁ?」
突如現れた間延びした声の方を向けば、入口のドアから石原美香(いしはら みか)が顔を覗かせていた。
美香は言葉遣いや態度には問題はあるものの、仕事の速さ、正確さはずば抜けており一目置かれている。
「部長がコピー室にいるところ初めてみたかもぉ。コピーなんて仕事、あたしたち下っ端にまかせればいいのにぃ」
言いながら、美香は晴仁に近づいてきた。
香水の匂いが鼻を湿らす。
「いや、私用だからね。そんなことまでお願いできないよ」
「ふぅん、そうなんですかぁ」
納得はしたようだが、立ち去る気配はない。
しばらくの沈黙の後、美香は艶やかな唇をしなわせ言った。
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