35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第2章 35歳にして、初のるーむしぇあ

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六時半、晴仁が起きて、一緒に朝ご飯を食べる。
ニュースを見ながら他愛のない会話をする。

七時半、出勤する晴仁を見送る。
「はい、お弁当」
玄関先で青いギンガムチェックのハンカチに包まれた弁当箱を差し出すと、晴仁はそれをさわやかな笑顔で受け取った。
「いつもありがとう」
「いやぁ、お礼を言われるほどの出来じゃないから」
照れ、というよりも、お礼に見合うほどのものを作れてない申し訳なさから居心地悪く頭を掻く。
「そんなことないよ。こーすけのお弁当はすっごくおいしいよ。職場のみんなからも羨ましがられるんだ」
こちらがこそばゆくなるくらいの賛辞の言葉を、恥ずかしげもなく平然と、さらに爽やかな笑顔も添えて言えるなんて、彼はきっといい旦那さんになるだろうなと深く感心した。
残念なのは、そんな彼を見送っているのは無職の中年であるということだ。

八時、テレビの電源を消してまず洗濯をはじめる。
服と靴下、タオルを分け洗濯機をまわす。
下着と靴下は手洗いしてから、服と一緒に洗濯機へ投下。

八時半、洗濯機をまわしている間に風呂掃除をする。
窓のないマンションはカビが生えやすいので念入りに磨きあげる。

九時、洗濯物をベランダに干す。
さすが高層マンション、一ヶ月たってもベランダに出るのはやはり怖い。
風が強い日などは特に慎重になりすぎて時間がかかる。

九時半、部屋の掃除を始める。
家が広いことに加え、変なところで几帳面な僕の生活が乗じて結構時間がかかる。

十二時、昼食に簡単なパスタをつくる。
テレビ番組を見ながら食べていると、晴仁からメールが来た。
『今日のお弁当もすごくおいしかったよ! 枝豆と卵焼きって意外と合うんだね。今度また入れてね』
彼はまめで優しく、いつも昼食の時間にこうしてお弁当の感想をメールで寄越してくれる。
こちらは住まわせてもらっているせめてもの恩返しとしてやっていることなのだが、こうやって優しい反応があるとやっぱり嬉しくて俄然やる気が出てくる。
ごはんを食べ終わった後、彼のパソコンを借りてお弁当のレピシを検索した。

十四時、ネットを見ていたらあっという間に時間が経ってしまった。
慌てて電源を切り、洗濯物を取り込んだ。
そして、何とはなしに二時間刑事ドラマを見ながら服をたたむ。

十六時、ドラマのエンディングの音楽で目が覚めた。
いつの間にか眠っていたようだ。
その後、急いでスーパーへ買い物に行く。
タイムセール真っ只中であり、主婦の方々の迫力に圧倒されながら、なんとか無事買い物を終えることができた。

十八時、夕飯の準備をしていると晴仁が帰ってきた。
先にお風呂に入ってもらい、その間に料理の仕上げに入る。
晴仁がお風呂から上がったところで、一緒に夕飯を食べる。
今日見たテレビの話や、スーパーでの安物争奪戦の話をして穏やかな食事の時間を過ごす。

二十時、お風呂に入る。
浴槽でまったりしていると、「皿洗いしてたら服が汚れた」と言って晴仁が浴室にやってきた。
どうせ着替えるならと言って、本日二度目の入浴。
しっかりしているようで、晴仁は少し抜けている。
こんなことは一度や二度ではない。
それにしても、やはり浴槽が大きめではあるものの、成人男性二人で浴槽につかるには少し狭い。

二十二時、明日の朝食と弁当の下ごしらえをして、晴仁と一緒にベッドに入る。

……。
………。
…………。

僕はがばっと勢いよく体を起こした。

「どうしたの、こーすけ?」
「あ、なんでもないよ。ごめん起こして」

晴仁が目を擦りながら、眠たげにきいてきたので、慌てて謝り布団にもぐった。
そして、布団の中で頭を抱えた。

どうしよう。何もしていない。
僕はこの一ヶ月驚くほど何もしていない。

今日一日を振り返って我に返った。
僕は就活のため、ここに住まわしてもらっているのに、就活に関することを何もしていない。
考えてみると求人情報さえ最近見ていない気がする。
危機感を覚えた僕は、決心した。
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