上 下
5 / 228
第2章 35歳にして、初のるーむしぇあ

2

しおりを挟む
六時半、晴仁が起きて、一緒に朝ご飯を食べる。
ニュースを見ながら他愛のない会話をする。

七時半、出勤する晴仁を見送る。
「はい、お弁当」
玄関先で青いギンガムチェックのハンカチに包まれた弁当箱を差し出すと、晴仁はそれをさわやかな笑顔で受け取った。
「いつもありがとう」
「いやぁ、お礼を言われるほどの出来じゃないから」
照れ、というよりも、お礼に見合うほどのものを作れてない申し訳なさから居心地悪く頭を掻く。
「そんなことないよ。こーすけのお弁当はすっごくおいしいよ。職場のみんなからも羨ましがられるんだ」
こちらがこそばゆくなるくらいの賛辞の言葉を、恥ずかしげもなく平然と、さらに爽やかな笑顔も添えて言えるなんて、彼はきっといい旦那さんになるだろうなと深く感心した。
残念なのは、そんな彼を見送っているのは無職の中年であるということだ。

八時、テレビの電源を消してまず洗濯をはじめる。
服と靴下、タオルを分け洗濯機をまわす。
下着と靴下は手洗いしてから、服と一緒に洗濯機へ投下。

八時半、洗濯機をまわしている間に風呂掃除をする。
窓のないマンションはカビが生えやすいので念入りに磨きあげる。

九時、洗濯物をベランダに干す。
さすが高層マンション、一ヶ月たってもベランダに出るのはやはり怖い。
風が強い日などは特に慎重になりすぎて時間がかかる。

九時半、部屋の掃除を始める。
家が広いことに加え、変なところで几帳面な僕の生活が乗じて結構時間がかかる。

十二時、昼食に簡単なパスタをつくる。
テレビ番組を見ながら食べていると、晴仁からメールが来た。
『今日のお弁当もすごくおいしかったよ! 枝豆と卵焼きって意外と合うんだね。今度また入れてね』
彼はまめで優しく、いつも昼食の時間にこうしてお弁当の感想をメールで寄越してくれる。
こちらは住まわせてもらっているせめてもの恩返しとしてやっていることなのだが、こうやって優しい反応があるとやっぱり嬉しくて俄然やる気が出てくる。
ごはんを食べ終わった後、彼のパソコンを借りてお弁当のレピシを検索した。

十四時、ネットを見ていたらあっという間に時間が経ってしまった。
慌てて電源を切り、洗濯物を取り込んだ。
そして、何とはなしに二時間刑事ドラマを見ながら服をたたむ。

十六時、ドラマのエンディングの音楽で目が覚めた。
いつの間にか眠っていたようだ。
その後、急いでスーパーへ買い物に行く。
タイムセール真っ只中であり、主婦の方々の迫力に圧倒されながら、なんとか無事買い物を終えることができた。

十八時、夕飯の準備をしていると晴仁が帰ってきた。
先にお風呂に入ってもらい、その間に料理の仕上げに入る。
晴仁がお風呂から上がったところで、一緒に夕飯を食べる。
今日見たテレビの話や、スーパーでの安物争奪戦の話をして穏やかな食事の時間を過ごす。

二十時、お風呂に入る。
浴槽でまったりしていると、「皿洗いしてたら服が汚れた」と言って晴仁が浴室にやってきた。
どうせ着替えるならと言って、本日二度目の入浴。
しっかりしているようで、晴仁は少し抜けている。
こんなことは一度や二度ではない。
それにしても、やはり浴槽が大きめではあるものの、成人男性二人で浴槽につかるには少し狭い。

二十二時、明日の朝食と弁当の下ごしらえをして、晴仁と一緒にベッドに入る。

……。
………。
…………。

僕はがばっと勢いよく体を起こした。

「どうしたの、こーすけ?」
「あ、なんでもないよ。ごめん起こして」

晴仁が目を擦りながら、眠たげにきいてきたので、慌てて謝り布団にもぐった。
そして、布団の中で頭を抱えた。

どうしよう。何もしていない。
僕はこの一ヶ月驚くほど何もしていない。

今日一日を振り返って我に返った。
僕は就活のため、ここに住まわしてもらっているのに、就活に関することを何もしていない。
考えてみると求人情報さえ最近見ていない気がする。
危機感を覚えた僕は、決心した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

学園王子と仮の番

月夜の晩に
BL
アルファとベータが仮の番になりたかった話。 ベータに永遠の愛を誓うものの、ある時運命のオメガが現れて・・?

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

処理中です...